えんさん

花筐/HANAGATAMIのえんさんのレビュー・感想・評価

花筐/HANAGATAMI(2017年製作の映画)
3.0
1941年春、佐賀県唐津市。この地で叔母の家に身を寄せる17歳の青年・榊山俊彦は新学期、アポロ神のような逞しい美少年・鵜飼に目を奪われる。同じクラスには虚無僧のような吉良、お調子者の阿蘇ら、一癖も二癖もある学友を得、彼らと共に“勇気を試す冒険”に興じる日々を過ごしていた。一方で、同じ家に住む、肺病を患う従妹の美那には恋心を抱いていた。彼女も俊彦同様、女友達のあきねや千歳ともに“不良”なる青春を謳歌していた。しかし、そんな彼ら彼女らの純粋で自由な荒れぶる日常は、いつしか戦争の渦に飲み込まれてゆくのだった。。「この空の花 長岡花火物語」「野のなななのか」に続く“戦争三部作”の最終章。檀一雄による同名短編小説を大林宣彦監督が映画化した作品。

大林監督作品を久しぶりにスクリーンで観させていただきましたが、思えば、僕が映画をよく見始めるようになった頃に、「あの、夏の日 とんでろ じいちゃん」や「22歳の別れ」、自身の作品の振り返りになった「転校生 さよならあなた」など、TVの延長ではなく、邦画が面白いと感じさせていただいた監督の1人でもあるのです。近年はご自身の体調もあって、少し作品を作られるペースに間隔が出てきたのはとても残念ですが、久しぶりの鑑賞にやはり大林監督らしさというのが息づいていて(作品の評価とは別に)すごく嬉しかったです。自身の戦争に対する想いを結実させた、戦争青春映画となっている本作は、戦争そのものは描いてはいませんし、空襲や徴兵など実質的な場面(それを匂わすシーンはありますが)もありませんが、あきらかに近づいている戦争の足踏みみたいなものが、若者の青春に暗い影を落としていくことが如実に感じられる作品になっています。

作品の味は大林監督らしい、一種デフォルメしたような劇画チックな手法で語り継いでいきます。演出の強弱はあるものの、こうした大林節はどの作品にも貫かれていて、単純に作品のあらすじだけ読んで見てしまうと、少しイメージと違うところに好き嫌いは正直分かれるかなと思います。ただ、本作に関しては各シーンでの作調や色使い、メイクや小道具の大胆な使い方に至るまで、とても御年80歳(2018年時点)を迎えようとする監督とは思えない若々しさすら感じます。それに男性陣、女性陣とも、作品の色にあった俳優を巧みに操っていますね。男性陣では一種マッチョ二ズムの象徴になる満島真之介、女性陣では妖艶に散っていく矢作穂香がとてもいい。脇役陣でも、武田鉄矢やピーターこと池畑慎之介のパワフルな演技も見もの。少しメッセージ性が強すぎるきらいはありますが、大林監督の集大成にふさわしい作品になっていると思います。