LalaーMukuーMerry

花筐/HANAGATAMIのLalaーMukuーMerryのレビュー・感想・評価

花筐/HANAGATAMI(2017年製作の映画)
4.2
日中戦争の始まった年から(1937)、日米開戦まで(1941)、九州・唐津を舞台に、三人の若者と三人の娘の青春の形見。
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迫りくる戦争を感じ、時代の抑圧に抗って自分らしくありたいともがいた若者たち。だが、そもそも自分らしさとは何だ? 明確な答えはないままに、ただ時代が押し付ける生き方とは違うということだけははっきり分っていた、迷える若者たち。かれらの鬱屈してくすぶる情念と観念の世界。
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戦争による死の予感、病による死の予感。それと対極にある生、生の象徴としてのエロス。生と死をつなぐもの、それは赤い血。そういった諸々が混然一体となって展開する・・・
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これは大林監督の頭の中の妄想をそのまま映画にした作品なのだろう。妄想だからストーリー展開に論理はないし、登場人物たちの行動もとても怪しくて不自然だ。だからちょっとついていけないというか、なんだかわからない狂った部分も多いけれど、狂気を通してしか伝わらない真実もある。作品から感じ取るしかないのです。
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全編にわたって大林宣彦ワールドが全開。私の思う大林ワールドとは、夢か現(うつつ)か?という妄想と現実の混沌、それが観客に伝わるようにするための音と映像による表現。
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桜吹雪、飛びかう蛍の光、夕焼け、月の光、祭り・・・現実離れした色彩の背景。羽衣、白い蛇、望遠鏡を通して見る世界、血、フラッシュバック、エロス・・・、不思議な会話、笛の音、ハーモニカ、バッハの無伴奏チェロ組曲・・・裏で雰囲気を支える音楽たち。
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大林ワールドは細部にこだわりぬいた美の世界でもある。自分を無にしてどっぷりと浸りつつ、そこから感じるものに目を向けるべし。こんな作品をつくれるのは大林監督しかいない。
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   ゆきずりの
   まぼろしの
   花のうたげ
   くるしくも
   たふとしや

(わかったように偉そうに書いたけど、咀嚼できてるとはとてもいえない残念な私)