岡田拓朗

花筐/HANAGATAMIの岡田拓朗のレビュー・感想・評価

花筐/HANAGATAMI(2017年製作の映画)
4.7
花筐/HANAGATAMI

少年は魂に火をつけ、少女は血に溺れる。

久しぶりに生涯ベストを揺るがす傑作に出会えてしまった。

いきなり物凄い衝撃が走って、そこからずっと衝撃が乗っかり続けてくる感じ。
まずは、純文学をそのまま映像化したような古風な美しさと奥ゆかしさと目まぐるしさ、現実の中の異世界感に圧倒させられた。

世の流れに抗うように爆発的に日々を生きる何者にも染まらずに自分を創っていく若者たち。
本気でぶつかり合い、それがゆえに生まれる固い絆は、理解できるようでできない不思議な感覚に包まれる。
方向性や考えていることは違うのに、何か見えない糸で繋がっている感じ。

意味のないことに対しての意味づけ、何もないからこそ何でもできる可能性を感じまくった圧倒的熱量に惹かれ、心動かされる前半。

台詞の応酬とめまぐるしく移り変わっていくシーンの連続に、情報量が多すぎて感覚でついていくのがやっとのこと。
それぞれの特性と偏った思想。圧倒的に自我が強くならざるを得ない時代であったことがわかる。
それくらいに世間の流れ、方向性が誤っていて、そこに抗わざるを得なかったのか。

男たちは(よい意味で)バカで一直線で、女たちは聡明で美しい。
でもそれがこの時代のあらゆるものを創っていた。
そしてこの時代の人たちはとても純粋で強かった。

不良というのは、この時代にとっての(現代から見た)正義だったのかもしれない。
みんな騙されたウソの世界で生きていた、いやもはや生かされていた。
戦争という大義のためにあらゆるウソが曲がり通っていた時代の反骨としての彼らの不良な青春は、今を生きる僕らから見るとむしろ健全なのである。

色んな観点でのこの時代を知りながら、ウソだらけの時代を懸命に生きるそれぞれの若者たちに感化させられ、音楽や映像と相まって強く感動させられた。

戦争なんかに殺されやしないぞ。戦争なんかに。
それが非国民として罰せられる時代。
その時代を生きる若者たちの全てをこんなにも表現している作品は他にない。
揺さぶられるものが半端なものじゃなかった。
文学の観点から遠回しにしか反戦争を訴えることができない時代だったであろうが、それでも、だからこそとてつもなく伝わってくる強いそれぞれの心情。

バラバラに見えていたそれぞれの信念と想いが交差していきながら、希望が見えたと思いきや、まさかの一気に堕ちていくラスト1時間は本当にやばすぎる。

青春が戦争の消耗品なんてまっぴらだ。
妄想を軸に出てくる夢は必死にカタチにしていった理想。
結局全てが消耗品として昇華されていくが、その全てが美しすぎて切なかった。

戦争に生かされて、戦争に殺される。
信念を持っていないと生きている心地すらしないのに、その信念を貫くための覚悟は物凄く大きいものでなければならない。
そんな時代の青春を映し出し、思い出として痛切なメッセージを残し切る展開とラストに心震えた。痺れた。

この時代に今作を映画化した大林宣彦監督とキャスト陣とスタッフ陣。天晴れすぎる。
原作はもっと変態的かつ文学的で、ここまでのメッセージ性があるものではなかったんじゃないだろうか。
原作は読んだことないが、大林宣彦監督なりのエッセンスが入っていたように感じた。

物凄い映画体験をさせてもらえました。本当に至高の映画体験でした。
感動を超えた言葉にできないその先を体験できた感じがする。
この類い稀な熱量に圧倒されて欲しい。

P.S.
戦争三部作とのことなので、一部の「この空の花」と二部の「野のなななのか」も鑑賞したくなった。
常盤貴子と門脇麦の魅力が半端じゃない。
矢作穂香の圧倒的お嬢様感。そして満島真之介ハマりすぎ!
キャスト全員とてもよかったけど、特にこの四方がやばかったです。
岡田拓朗

岡田拓朗