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カランコエの花の会社員のレビュー・感想・評価

カランコエの花(2016年製作の映画)
4.0
舞台挨拶にて監督の熱い想いを感じることができたこともあり、久しぶりに長めのネタバレレビュー。



ある日突然行われたLGBTに関する授業をきっかけに、思春期の高校生たちは、とある噂に翻弄されていく。それは、クラスの誰かがLGBTなのではないか、というものだった。LGBT当事者というよりも、むしろそれを取り囲む人々に焦点をあてた作品。

ある生徒から同性が好きであると秘かに相談を受けた保険教師は、恐らく心からの善意をもとに特別授業を行った。しかしその内容はありきたりで薄っぺらいもので、当然他の生徒の心には響くはずもない。むしろそうした一方的な説教は、潜在的な差別意識を認め、彼ら彼女らを特別視してしまいかねない。30分強の短い作品である本作は、そうした強烈なメッセージ性を我々に突き付け展開していく。

クラスの中心的な男子達が興味本意から当事者探しを始めたことから、クラス全体に緊張感が走るようになる。高校生の彼らは思ったことを全て口に出すほど幼くはない。怖い、気まずい、そうした感情を覆い隠さなければならないという意識が、建前上無関心を装いつつも、親密なグループ内では当事者探しの噂で持ちきりとなるという陰湿な状況を作り出す。

主人公たちのグループはそういった気持ちを言葉にすることなく日常を送っていたが、主人公はその当事者が誰であるかを知った瞬間から、普段通りの振る舞いができなくなってしまう。二人きりの状況下におけるぎこちない対応は、やんわりとした拒否反応として現れ、意図せず当事者を傷つけてしまった。

翌日教室の黒板には、LGBT当事者を名指しする文章が書かれ、ついにクラスの緊張感は最高潮に達した。主人公は必死でその人がLGBTであることを否定し黒板の文字を消したが、当事者にとってそれはとどめの一言となってしまう。
その文章を書いたのはなんと当事者本人であった。好きであるという気持ちを伝えたくても伝えられず、もどかしい気持ちを抱えていたものの、片想いの時間は思春期特有の、かけがえのない幸せな時間でもあった。しかしクラスに噂が蔓延し、辛い思いが募り追い詰められていく中では、こうした方法でカミングアウトする他なかったのかもしれない。
「なんで庇うの!」その人は、LGBTというレッテルを貼られることで皆の心に見えない壁ができることを分かっていたのである。決して黒板の文字を消して欲しかったわけではない。決して特別視してほしいわけではない。ただ単に、好きな人を好きでいたい、それだけだった。


LGBT当事者の方々はこの作品に流れる言い様のない緊張感を日々感じていることであろう。その一方、LGBT差別に対する問題意識の高低は人それぞれであっても、LGBTでない人々には少なからず彼ら彼女らに対する潜在的な差別意識は存在しているといえよう。この作品は、無関心を装う大多数の層にも、また、流行りのLGBT作品の数々を上から目線で批評する我々のような層にも、容赦なく切り込んでくる。
 追い詰められる彼らにどう向き合い、手を差し伸べればよいのか考えさせる、素晴らしい挑戦的な作品であった。
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