アズマロルヴァケル

殺意の誓約のアズマロルヴァケルのレビュー・感想・評価

殺意の誓約(2016年製作の映画)
3.4
主人公の父親よりも被害者の父親の娘に肩入れしてしまったミステリー映画

・感想

『移動都市:モータルエンジン』のヘラ・ヒルマーの作品を観ようと、気になってレンタルで観賞。

まず、映画の雰囲気はとても不吉で不穏。主人公であるフィンヌルがトライアスロンが趣味なのか、マウンテンバイクで雪道を走っているシーンでは何処か景色全体が異様で気味の悪い感じを出していてとてもいいし、フィンヌルがオッターを父親の家に監禁しようとする下りは殺風景な映像と不穏なBGMと相まって結構スリリングに仕上がっていました。

その一方で、物語自体はとにかくフィンヌルの長女アンナが可哀想に感じました。個人的にはもうちょい場面を足しても良かったと思ったのですが、中盤でフィンヌルがオッターを監禁する前日にオッターとアンナがオッターの家で海外に行く話をしているシーンは結構微笑ましく感じるし、本編を見終わってからもう一回そのシーンを観てて自然と切ない気持ちになった。特にラストシーンでアンナがフィンヌルの嘘に気づいてショックを受ける下りは悲しくて痛い。

あと、中盤でフィンヌルが家の台所でパスタを作っているシーンはほんの一瞬
しか映らないんだけど、個人的にはパスタが美味しそうに思えてならなかった。物語に必要性がなかったのか、フィンヌルと前妻がどのような関係性なのかが敢えて描かれていないため、ちょっとモヤモヤしたところはありましたが、このシーンだけでもフィンヌルとその妻子との家庭が垣間見えてとてもいいです。

ただ、敢えて主人公のフィンヌルの視点がメインになっているので、長女のアンナや妻のソルヴェイの人物描写はやや薄めに描かれていて、特にラストシーンのアンナの心理描写が伝わりやすくするようにもうちょいアンナとオッターがふたりきりでラブラブになってるシーンを幾つか追加しても良かったのではないかなと思いました。

あと、中盤である事からフィンヌルのパソコンでアンナが性的暴行を受けている動画を観るシーンがあるんだけど、せっかく手術シーンがリアルなのにこのシーンでは動画の内容をそんなに見せてないので個人的には見せても良かったのかなぁと思いましたし、ラストシーンでベルナが警察署の前に立ち尽くすシーンを覗いているシーンで物語を終えるのは少しだけ納得いかなかったのですが、父親と娘の関係性を描いた悲劇的な作品としてはほぼほぼ成功しているのではないかと。

結論からすると、フィンヌルが犯した犯罪が完全犯罪じゃないところを気にしなければ普通に良作だと感じております。少なくとも過激なシーンはそんなにないので未成年でも安心して観れそうなミステリー映画なのですが、『移動都市/モータル・エンジン』でヘラ・ヒルマーを知った方には普通にオススメしたい一作でした。