TAK44マグナム

オタク・レボリューションのTAK44マグナムのレビュー・感想・評価

オタク・レボリューション(2017年製作の映画)
3.8
少女たちよ、革命を起こせ!


ものすごくお嬢様っぽい名前のヴィクトリア・ジャスティス主演の学園コメディ。
一部を除いて、出てくる男性キャラはバカばかりで、主要なキャラはみんな女子という、これは完全にガールズムービー。

スクールカーストをひっくり返すのを痛快に描いている・・・つまりはよくあるタイプの軽い一作ですけれど、一捻り加えてあって唸らされました。

ダサい邦題で損していますが、なかなかの良作だと思います。
あまり色恋沙汰に重点をおかないのも、本作のようにテーマが別にあるならその方が良いし(エロ要素も、さほど無い)、ポンポーンと話が進んで難しく考えさせないのも今風。
それでいて終盤にかかると、いつの間にか重要な事をちゃんと語っている脚本が誠実です。
けっこうな名言多数なので、表層面だけをなぞらず、ちゃんと台詞を汲み取って観てほしい映画でもありますね。


高校三年生のジュディは親友のミンディと共にスクールカーストの最底辺。
最上位に君臨する学園の女王ウイットニーとその取り巻き連中から嫌がらせを受ける日々でした。
将来に不安を感じるジュディ。
MITへの入学を夢見るミンディ。
2人は、とりあえず三年生の一年間を無事に過ごすためウイットニーと友達になろうとしますが、それは見事に失敗。
こうなったら革命を起こすしかないと、有能なオタク仲間と団結して下克上を目指すのですが・・・


捻りが効いていると前述しましたが、どの辺がそうなのか、少しおもったところを書き出しますと、まずは単純にナードがジョックに復讐する話なわけでなく、その行為自体が虚しいと説いているところですね。
そんなことに労力を割くぐらいなら、短い高校時代なのだから好きなことを見つけ、それに全力投球すべきだと、ミンディが恩師に諭さられる場面は頷けました。
実際に虐められたりしていたら、「そんな綺麗ごとを」と思うかもしれませんが、経験から言わせてもらうと確かにその通りで、学生でいる期間よりもその先のほうが人生遥かに長いので、そんな下らない連中にかまっている時間は勿体ないのです。

そして、本作における「革命」で得たものは他ならぬ「虚しさ」でしかありません。
負け組なれど数では勝るという構図を利用して革命を成功させますが、これは規模が国家単位になっても同様。
革命とは美辞麗句ばかりではないんですよね。
少数の権力に抑圧された者が下克上をはたしても、その先に待つのは定番である「勝利者のファシズム化」と「内部崩壊」だったりします。
歴史がそれを物語っていますよ。
ミンディたちの革命も、同じ道を辿ります。
それがリアルで興味深く、面白いところでした。

上記のように、本作の主題は学園に革命を起こすことじゃありません。なんといっても中盤には革命が成功しちゃいますから。
本当に語りたいテーマは、大切な事は喜怒哀楽を共にできる誰かがいるか?
人生を賭けられるほど大切な目標があるか?
の2つではないでしょうか。
1つ目は分かりやすいテーマですが、2つ目についてのはライバルキャラであるウイットニーを介しても描かれており、彼女を単純な悪役で終わらせていないのが良かった。
お金持ちのブロンド美女で鼻持ちならない性格という、実に分かりやすいキャラクターかと思いきや、ウイットニーには彼女なりの大義がちゃんとあるのです。
アメリカには、戦略性やカリスマ性があり、ちょっとやそっとではへこたれないタフな人材も必要不可欠。そんな人物像をウイットニーに投影しています。
つまり、ウイットニーは「人々を率いるスペシャリスト」であり、ジュディは音楽、ミンディは科学、ヴァージニアは情報、オタク男子たちはそれぞれが好きなサブカル・・・と、社会は様々なスペシャル(得意分野)を持つキャラクター(個性)によって成り立っていて、どれもが欠けてはならないと描いているんですね。
同時に、目標を達成するためには「スペシャリスト」になる事が必須だとも。
この、「スペシャリスト」という概念がアメリカらしいというか、「個よりも集団」を重んじる日本だと、ちょっと感覚が分かりづらいかもしれません。
アメリカは、たぶん多くの人々が、ティーンの段階で将来の自分を見据えているんじゃないですかね。漠然と大学に行かないと、とかではなく、何のためにどこの大学に行くのか?
最終目標のためにまずはどんな仕事に就くべきなのか?
などの考えをハッキリと持った人が多いのではないでしょうか。
一概には言えませんが、様々な学術、文化やスポーツの分野で活躍している方の話を聞くと「この人は特別なんだな」と思ってしまうのは、多くの日本人が集団に埋没することに慣れてしまっているからのような気がして、例えば子供にはそうはなって欲しくないなと思ったりします。
自分が埋没しちゃいましたから、余計にそう感じるんですよね。

軽い学園コメディにも(恋愛要素だけでなく)こういったテーマを分かりやすく溶け込ませることが出来るのが如何にも多様性の国らしいし、素晴らしい一面じゃないでしょうか。


良作ではありますが、荒削りな部分も目立ちます。
「マーマレードボーイ」みたいなラブコメっぽさとか、たくさん詰め込んだ要素を消化しきれていないし、せっかくのキャラクターなのに描き切れていないのがたくさんいます。
ファンタジーオタクやSFオタクはギャグ担当みたいな感じもありましたが、差別に対抗する黒人のシュガーなどもひっくるめて、一山いくらのキャラのまんま終わってしまった感は否めません。
これはテレビのミニシリーズぐらい時間をかけないと難しかったんじゃないかな?
90分程度の尺では明らかに描写が足りてないもの。

それと、多様なオタクたちが結集するなんて、何か面白いものが見られる期待感があるじゃないですか。なのに、革命運動にそれぞれのスキルが役に立つわけでないのは娯楽映画として決定的にダメ。
情報収集家のヴァージニアぐらいでしょう、スキルが役立ったのは。
そもそも主人公からして「芸術的な感性に優れている」という面以外、特別なものを持ち合わせていないのも使いにくい。
趣味嗜好が違うオタクたちが一致団結して、数の論理でジョックたちを圧倒するという展開では正直物足りなかったです。
起業オタクなんて性格の嫌らしさしか感じなかった。
ジョックスより捻くれているぶん、よほどタチが悪いよ。


オタクが活躍する話ということで「スターウォーズ」など、映画ネタが会話の中でたくさん飛び出てきます。
映画好きなら思わずニヤニヤしちゃいますね。


※以下はオチに触れているのでネタバレ気味です。
気になる方はスルーしてください。










ミンディが臨んだMITの面接で「あなたは何が特別なのか」と聞かれ、賞をとったとか元素表を暗記しているとかをまくしたてますが、そんなことは勉強していれば誰でも出来るレベルなんですよね。
ミンディは、プロムのパーティで自白剤を使った事件を起こし、警察に捕まっています。
普通ならこれで合格は無しになりそうなところを合格するのは(日本だったら絶対に落とされるでしょう)、勝手な想像かもしれませんけれど、逆にその事件が評価されたからではないのかな、と。
ミンディを担当した面接官も、かつて先輩たちとイタズラばかりしていたことが一番役に立ったと語っていました。
多少のイタズラをするぐらいじゃないと「特別な人材」にはなれない、つまらない人間なら必要ないという判断基準がMITにはあるのかもしれません。
「冒険心」それこそがフロンティアスピリッツに必要不可欠。
多少のイタズラも冒険のひとつだと、そういった考え方って分かる気がします。
他人に迷惑かけるのはどうかと思いますが、「子供のイタズラ」を許容できる広い心を持ちたいものです。
あくまでも、「イタズラ」の範疇でお願いしたいですけれど(汗)


NETFLIXにて