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モリーズ・ゲームのTOSHIのレビュー・感想・評価

モリーズ・ゲーム(2017年製作の映画)
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「ソーシャル・ネットワーク」等の脚本家であるアーロン・ソーキンの監督デビュー作だが、ソーキン監督ならではの実在の人物の栄光と挫折、光と影の物語だった。そして予想通り、いや予想以上のスリリングな会話劇だった。

冒頭、寝ていたモリー(ジェシカ・チャステイン)が電話で起こされ、取り囲んだFBIに逮捕されるシーンから、一気に引き込まれる。
遡って2002年、心理学教授である厳格な父・ラリー(ケヴィン・コスナー)に育てられたモリーは、大学生でソルトレイク冬季オリンピック最終予選に臨んでいた。「普通のスキー板の固定レベルはこれ位だけど、私はこれ位」とか、そんな情報が必要かと思えるモノローグが重なる事に、本作のテイストを感じる。モリーは不運にも、ゲレンデに落ちていた一本の松の枝にスキー板が当たり、激しく転倒する。確率的には非常に低い出来事によって、彼女の人生は大きく転換させられた事になる。
モリーは選手生命を断たれ、以前からの計画通り経営者になるため、ロースクール行きを考えるが、その前に一年間の休暇のため、ロサンゼルスでクラブのウェイトレスをしていた所を、客の不動産ディベロッパー・ディーン(ジェレミー・ストロング)に秘書としてスカウトされた事が、激動の人生の始まりとなる。ディーンは「コブラ」と名付けた、秘密のポーカーゲームを主催していた。客はプレイヤーX(マイケル・セラ)の他、俳優・ラッパー・ボクサー等、大金持ちのセレブばかりだ。プレイヤーXは某有名ハリウッド俳優のようだが、他の客も実在の俳優・スポーツ選手等が臭わされている。参加費は1万ドル(100万円)で、一夜で100万ドル(1億円)が動く。モリーは運営を取り仕切るようになり、セレブ達の思想・行動様式を身に付け、受け取るチップで生活レベルを上げていく。セレブ達の独特な感覚、セレブはどうしたら金を使うのかという観点は、多くの観客は知らない世界で興味深い。成功とは人の縁によってもたらされたチャンスを、自らの才覚で掴み取れるかどうかである事を思い知らされる。

現在(2014年)、FBIに逮捕されマフィアとの違法ギャンブルの関与で告発されたモリーは、2年前にFBIにゲームを閉鎖させられ、資産も没収されており、2年も経って逮捕されたのは、出版した回顧録「モリーズ・ゲーム」が関係しているらしい。直接の罪状は、約10年の賭場運営の最後の半年に、手数料(レーキ)を取った事だ。賭場を開催するのもチップも合法だが、ゲームごとに手数料を取るのは違法なのだ。
何人もの弁護士に断られたモリーは、報酬が高額なチャーリー(イドリス・エルバ)に弁護を依頼する。全編がそうだが特に、モリーとチャーリーの掛け合いは、セリフの情報量の多さが圧倒的だ。ゴシップ記事による偏見で弁護を拒否する、チャーリーが笑えるが、どうでも良い部分まで詳しく話すセリフのために、それを理解しようとして結果、観客が置いていかれそうになるのが、ソーキン監督作品の独特のペースのようだ。妥協して法廷での罪状認否に、代理人として同席したチャーリーは、他人を売らない彼女の独特な倫理観に感銘を受け、弁護を受ける事に決める。

コブラを運営していた時代、チップで稼いでいるから秘書分の給料は払わないと言い出していたディーンが、遂には解雇しようとした時、モリーが繰り出す起死回生の一手が鮮やかだ。更にニューヨークに舞台を移し、億万長者として成功を収めながらも、寝ないためにドラッグを乱用し、客にロシアンマフィアを招き入れた事で、モリーは危険な状況に陥って行く…。バイオレンスシーンが、ショッキングだ。
3つの時系列が交錯する展開や、高速なカメラワーク、情報量の多いマシンガントークの会話劇に魅せられた。時系列が交錯しながら、モリーの人生・人物像が立体的に浮かび上がってくる構成が見事だが、改めて人生は偶然という名の必然の積み重ねで、出来上がっているのだと感じた。
そして終盤の疎遠だった父・ラリーとの再会、かつてないタイプの“正義”の判決に感動させられる。モリーの人生を象徴し、今後の人生を暗示するラストのシークエンスが、素晴らしい。

男達に心を許さず、恋人も持たず、男相手のビジネスで成り上がるモリーは、無意識に厳格な父親への反動で行動しているように見える。ラリーとの再会によるやり取りで、やっと彼女の心がコンプレックスから解放され、自分自身を取り戻したかのようだった。
モリーの役柄は、優秀な頭脳を駆使して、違法スレスレの危ない橋を渡るという意味で、「女神の見えざる手」と重なり、まさにチャステインのハマリ役で痛快だったが、一度集客パターンが生まれると、柳の下のドジョウは何匹でも狙いに行く映画界の体質だけに、今後もチャステインが、こういった主役を演じる作品が続きそうだ。
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