ノラネコの呑んで観るシネマ

海を駆けるのノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

海を駆ける(2018年製作の映画)
3.4
津波と戦争の記憶が残る、インドネシア、アチェを舞台にした異色の寓話。
ディーン・フジオカ演じる海からやってきた謎の男が、日本とインドネシアの若者たちの間に小さな波乱を起こす。
閉塞した日常に、突然異物が投げ込まれるのはこの作家のいつものパターン。
しかし今回は、あまり上手くいっていないのではないか。
超常の力を持つディーンが、奪いそして与える海そのものの化身だとしても、彼の存在が若者たちの物語から乖離してしまっているように思う。
いや、日本から散骨にやって来た阿部純子を軸にした話自体は決して悪くない。
海を介した日本とインドネシアとの重なり合う歴史などのモチーフは面白く、インドネシア版の「ロスト・イン・トランスレーション」的な味わいもある。
だが、全体の中で異物のポジションが中途半端で、結局ディーンがいてもいなくても、物語の大勢には影響が無いのではないか。
何が起こるわけでもない、四人の若者たちの日常の描写だけでも、結構飽きずに見ていられるのはさすがだが、「淵に立つ」や「さようなら」などにあった凄味が感じられず、ちょっと散漫な印象を受けた。