アズマロルヴァケル

海を駆けるのアズマロルヴァケルのレビュー・感想・評価

海を駆ける(2018年製作の映画)
3.4
駄作というわけではない難解な映画

・感想

初見で観た感想ですが、内容や表現したいことはあながち分からなくも無いんだけど、前作の『淵に立つ』よりも少し難解になったような印象を受けました。終始「え?どゆこと?」ってなるシーンの連続なので、予備知識なしで観てしまうと痛い目にあうかもしれない映画です。

まず、主演は謎の男性ラウ役のディーン・フジオカではあるものの、全編に渡って描かれるのは阿部純子演じるサチコや太賀演じるタカシらの描写が多い。なのでこの映画は前作の『淵に立つ』同様、多くを語らない映画。或いは個人の解釈がないと難しい映画。

この映画の核心となるであろう謎の男性、ラウは要は人間の味方のようで敵のような存在として描かれていて、ディーン・フジオカを起用していることもあって華があって圧倒的な存在感を感じました。

また、2004年のスマトラ沖地震の津波の爪跡を感じさせる描写もあれば、事実上この映画の主人公っぽい阿部純子演じるサチコや太賀演じるタカシたちが繰り広げられる青春映画のような物語の側面もまたクスッと笑えるようになっていて面白いです。特に鶴田真由演じる貴子がタカシに夏目漱石が『I LOVE YOU』のことを『月がきれいですね』と訳したという根も葉もなさそうなことを教えるのですが、後にタカシが身につけたその知識が予想以上に空回りするところは結構笑えました。

ただ、どうしても『淵に立つ』よりも難しいという点とスマトラ沖地震はまだしも、アチェ独立運動やインドネシア独立戦争のことにも触れているので充分な知識を持ってから映画を観ないとメッセージ性が伝わりにくそうな映画ではありました。

例えば、後半にインドネシア人のクリスと日本人のサチコがサチコの父親が訪れていた展望台に行ったシーンのあとに滝の前で少年が透き通った声で歌いあげるシーンがあったのが一番謎でした。その少年がディーン・フジオカ演じるラウらしいのですが、意味が深い表現であると同時にちょっと辻褄が合わなかったので非常にモヤモヤした気持ちになりました。あとはラストでラウがサチコらと別れたあと、中途半端な終わり方をして物語に幕を閉じるのでどうも微妙な気持ちにさせられます。

結論としては『淵に立つ』同様、ラウの正体は解釈しがいがあるとして、登場人物の背景や過去は概ね多くを語らないようになっていて、最近ではホラー映画『悪魔の奴隷』がお馴染みのインドネシアが舞台ですが、見ててメッセージ性や独自性を感じられる芸術路線の映画ではありました。少なくとも玄人向け映画なので凄く好みが分かれそうです。