ロッツォ國友

殺人者の記憶法のロッツォ國友のレビュー・感想・評価

殺人者の記憶法(2017年製作の映画)
3.6
「これは殺人ではない 掃除だ」


アルツハイマーの元連続殺人鬼VS新しい連続殺人鬼、というアイデアの斬新さも素晴らしいが、その設定を余すことなく最大限活かしたテクニカルな表現の連続にも脱帽。
特定のタイミングでのどんでん返しというよりは、何ならずっとクルクルしてるかのような映画体験。


丁度良いテンポ感で事実が積み重なっているが、病気の進行と共に、どれが真実で、どれが勘違いなのか次第に分からなくなってゆく展開の不安定さにドキドキした。

登場人物それぞれのキャラ立てもはっきりしていてとても見やすい。
しかし、一連の事件を取り巻く出来事は、霧に包まれているかのように見えず、掴めず、先がとても気になる。

その傍ら、アルツハイマーであることを活かし、シリアス展開の途中なのに忘れて面白いシーンに突入してしまう悲しい笑いがまた実にいい。

おっさん!!!
突っ立ってる場合じゃねえよ!!!!


カルチャーセンターで詩の勉強をするギャグパートがあったりするが、全編に渡って続く主人公自身のナレーションは、まさに詩そのもの。
キレのある一言一言が胸に刺さる。



自我が歪み、記憶が溶けてゆく不安感。
忘れる系のキャラクターは幾らでもいるが、本作は常に「忘れる側」の視点に立つ為に、観る者も映像に映ったものが全く信じられなくなってゆく。
アルツハイマーという病の全てではないにせよ、こういった病を患う恐ろしさを体験できて良いと思う。

その一方で気になったのは、そのアルツハイマー視点での描写が本当に最後まで徹底し過ぎて、観る者としては何を信じて良いか完全に分からなくなること。
映画体験としては斬新で興味深いのだけれど、物語としては、ここまで色々溶けちゃうともうどうでもいい感じがしないでもない。
ここは賛否を分ける所じゃないしら。

とは言え、実際の闘病もそうかもしれない。
諦めず自分にこだわり続ければいつの間にか踏み違えて意味不明な行動を連発するかもしれない。
丁寧に一つ一つ記録しても、些細なことからそれすら信じられなくなるかもしれない。
拠り所が信用できなくなり、自我が少しずつ消失してゆく虚空こそ、本当の恐怖かもしれない。


ほんでまぁ、クライマックスも最高でしたね。
ちゃんと観たいものを魅せてくれて大満足。
小道具の使い方も良いですね。


俺も物忘れが激しい方で、これまで電車に信じられない本数の傘を忘れてきたし、廊下にトイレットペーパーを取りに行って忘れて諦めて戻ってまた思い出してを二往復したことがあるし、今日だってお気に入りの腕時計を家に忘れてきた(本当にそれはお気に入りなのか)ワケだけれども、それが高齢化と共に、忘れてはならないものまで忘れるようになる恐ろしさを体験できてよかった。
斬新で不穏で洗練されていた本作の映画体験は、忘れないようにしたいものだ。
ロッツォ國友

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