えんさん

殺人者の記憶法のえんさんのレビュー・感想・評価

殺人者の記憶法(2017年製作の映画)
3.0
アルツハイマーを患う元連続殺人犯ビョンス。ある日、接触事故で偶然出会った男テジュから異様な雰囲気を感じ取ったビョンスは、彼も殺人犯であることを直感する。警察に届け出るビョンスであったが、なんとテジュは警察の人間であり、アルツハイマーで不可思議な行動をして警察に厄介になることもあったビョンスの訴えを誰も信じなかった。止まらない連続殺人に、やがて自分の娘も標的になっていることを感じたビョンスは、自力でテジュを掴まえようと画策するが、同時に薄れていく彼の記憶とも戦わなければならなくなる。。キム・ヨンハによる同名小説を「サスペクト 哀しき容疑者」のウォン・シニョン監督が映画化した作品。

記憶の喪失という問題を抱える主人公が、薄れゆく記憶の中でもがきながら事件の真相に迫る、、というストーリーを聞くと、僕の好きなクリストファー・ノーラン監督の長編デビュー作「メメント」を思い出しますが、あちらはカット割りとフラッシュバックを多投して、主人公の立場を観客に追体験させる巧妙な技を魅せたのに対し、本作はあくまで視点は普通に第3者という立場を使いながら、夢と白昼夢を混在させたり、記憶が飛んだという設定でカットを飛ばしたりする工夫を導入していたりします。それよりも見所になっているのは、何と言っても主人公ビョンスを演じるソル・ギョングの圧倒的な演技力。犯人を追い詰めるものすごい形相を見せたかと思えば、記憶が飛んだところは性格が真逆になって穏やかな表情に変わったり、記憶を何とかとどめている内に必死に行動していくところの力強さなどは見応えたっぷりです。映像フィルタもうまく使い、全体的に暗めなトーンで、過去シーンやビョンスが心穏やかにする竹林シーンや、テジュと衝突事故を起こす霧の中での浮かび上がった感じなど、物語に合わせた色使いも、観ているものの目をスクリーンから離さない、良い効果となっていると感じます。

ただ、全体的な物語の設定が少し突拍子もないかなと思います。アルツハイマーが外傷性であったのはよいとして、よく娘が成長するまで障害が起きなかったなとか、ビョンス自身も小さい頃にトラウマがあったとはいえ、連続殺人を起こしすぎで、しかも警察に全く捕まらず、逆に警察とフレンドリーに付き合っている感じもあるというのもどうかな、、と観ていて思ってしまいます(笑)。それに小屋に犯人を追い詰めるまではサスペンスとして上質な感じを作っていたのですが、ラストがその犯人と結構ドタバタなアクションシーンに突入してしまうのも、少々下世話な感じがした展開だなと感じました。韓国映画らしい力感あふれる作品といえばそうなのですが、ちょっとスマートではないところに好き嫌いは分かれるかなと思います。