Inagaquilala

殺人者の記憶法のInagaquilalaのレビュー・感想・評価

殺人者の記憶法(2017年製作の映画)
3.8
迂闊にも、この作品にふたつのバージョンがあることを知らなかった。しかも、その両作品とも同じ劇場で同時期(「第2」バージョンのほうが少し遅れて公開)に上映されていたため、自分の観たものがどちらか若干戸惑ってしまった。観たのは、「新しい記憶」というサブタイトルのない「第1」のほうだ。

アルツハイマーにおかされた殺人犯が主人公。自分の記憶が新しいものから消えていくので、録音機に自分の行動や記憶を吹き込みながら、ひとり娘を新たに現れた殺人鬼から守るストーリーなのだが、趣向としては、クリストファー・ノーランの出世作である「メメント」に通ずるものがある。ただ、この記憶をなくしていく主人公という設定は、かなりややこしく、展開されている映像が果たして現実なのか、彼が忘れてしまった映像なのか、注意深く判別しながら観賞していかなければならない。

とくに疑り深い人間にとっては、どれがいま起きている現実なのか、かなり注意を払わざるを得ない。いわゆる主人公は「信用できない語り手」としても機能しうる構造になっている。実際には観ていないのだが、「第2」バージョンのほうは、自分がこの「第1」でミスリードされかけた結末となっているらしいのだが、それほど中盤以降の展開はサスペンスとサプライズに満ちている。いったい、どこに連れて行かれるのか、ひさしぶりにそんな良質な魅惑にも包まれた。

小説を原作とした作品らしいが、この「第1」バージョンでは、ふたりの殺人者の対決がドラマの主旋律となっている。ストーリーが進むにつれて、明らかになっていく主人公のバックストーリー。最初に感じた疑問が次々に驚きとともに明らかになっていく。その物語るスタイルはなかなかスマートで、いつのまにか作品のなかにひきこまれていく。さらにサプライズ感が満載といわれる「第2」バージョンのほうも観なければ。
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