Takano

殺人者の記憶法のTakanoのレビュー・感想・評価

殺人者の記憶法(2017年製作の映画)
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「記録より記憶に残る選手」みたいな表現があるけれども、もう選手として活躍しているからには、公式記録が残るわけで、この「記録より記憶に残る」という枕詞は私達のような、この先、一生公式戦ということを経験しないであろう運動神経悪い人間を表現するときのために使用を控えてもらいたい。記録より記憶に残る人間になるというのは並大抵のものではない。人間は忘れっぽい。誰に何を話したかも忘れる。話された方は案外覚えているものだよ。



この『殺人者の記憶法』の主人公ビョンスは、アルツハイマーの元殺人鬼であり、彼の目線で物語が語られていく。曖昧となっていく自分の記憶に絶望する日々を送っていたが、ある日、交通事故に遭遇した彼は、そのもう一方の車の運転手テジュと出会い、あることを察する。「こいつは殺人鬼だ!」と。この蛇の道は蛇的な直感をもとに、ビョンスがテジュを捜索することから話が転がりだす。



つっても、このビョンスお父さんがアルツハイマーなもんだから、、、すぐ大事なことを忘れてしまうし、言っていることとやっていることが違うことがある。こんなにも信頼できない一人称の映画があっただろうか。どこまでが正解か、どこまでが幻想か、っていうか本当に殺人鬼だったの??事実を確信できない我々の頭はメッスメスにされてしまう。もう、お前が独白するんじゃないよ!!



でも、安心してください。ビョンスお父さんにはしっかりした一人娘のウンヒという子がおりまして、彼女がそんなお父さんのためにボイスレコーダーをプレゼントしているのです。このボイスレコーダーがいわゆる『メメント』でいう刺青に当たるわけです。(あいつも彫らずにボイスレコーダー買えばよかったのに)このボイスレコーダーが観客にとって唯一の「事実」として受け止められるもの。この音声で我々は展開を脳内で整理するのです。



でもね、その追っかけまわしているテジュというのが厄介な男でね、ビョンスの不安定な記憶や、娘のウンヒを上手に巻き込みながら壮絶な心理戦を行うわけなのです。殺人者vs殺人者、悪vs悪という構図だからこそ味わえる不思議なすがすがしさよ。派手にやっちまってくれてます。一進一退の攻防がいやに不思議に残る映画。そら、嘘か誠かわからないおじさんがずっと話すから、話された方は案外覚えてしまうよ。
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