じぇれ

バッド・ジーニアス 危険な天才たちのじぇれのレビュー・感想・評価

4.0
【心の危うさに胸を痛める骨太ドラマ】

カンニングビジネスに手を染めた若者たちを描く、タイ発の青春サスペンス。

宣伝通り『オーシャンズ11』系統のクライムサスペンスであり、若干の無理はあれど、カンニングシーンはスリル満点。
しかし、本作の本質は『オーシャンズ11』とは異なるものと言えます。
『オーシャンズ11』では、主人公たちの犯罪行為を正当化するための悪役が存在し、犯罪の成功を観客は願います。要はエンターテイメントなんですね。

しかし、本作には憎むべき悪役が存在しません。その代わりに描かれるのが、タイの社会事情。
貧富の差が激しく、かつ受験戦争が加熱している社会が、4人の若者たちを狂わせていきます。
しかも、彼らの価値観はバラバラで、互いを理解しえないまま、クライマックスへとなだれこんでいくのです。
この交錯を丁寧に描いているからこそ、本作のクライマックスが私の心をかき乱したのだと思います。

そう、一切彼らを応援する気にはなれませんが、なんとか平穏な日々がこないものかと願わずにはいられません。

歪んだ社会の犠牲になるのは、いつも子供たち。大人として私に何ができるのか真剣に考えなければならないと、痛感させられました。

ほろ苦い青春サスペンスの良作です。

※主人公リン役に、(言葉は悪いですが)美人ではない女優さんを起用しています。これが実にいい!
アイドル的ルックスの女優ばかりが主役を張る日本のメジャーにも、こういう適材適所のキャスティングを真似してほしいものです。
じぇれ

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