つのつの

バッド・ジーニアス 危険な天才たちのつのつののネタバレレビュー・内容・結末

4.3

このレビューはネタバレを含みます

(ややネタバレ)
デヴィッドフィンチャーの映画、
特にファイトクラブとソーシャルネットワークへの憧れともアンサーとも取れる作品。
ほんの些細なきっかけで始まった運動が社会の既成概念に戦いを挑む巨大なムーブメントとなっていく高揚はまさにそうだし、
その後着地の苦さも実にソーシャルネットワーク的。
特にそれが明確に現れるのはシドニーのビル群を見上げる2人の場面。
完璧にファイトクラブのラストだけど、本作はビルが倒壊しないんだ。
ナレーションも「明日から」世界は思い通りになると言ってるし。

正直ミッションインポッシブルみたいに単純明快ハラハラケイパーものを期待すると裏切られるけど、それ以上にシビアでオトナな映画。
カンニングを頼むグレース・パットとリンさんの関係の、本当の友情とそこにうっすらと混じる欺瞞のバランスも素晴らしいし、何よりクロニクルのデハーンを思い出すバンクが良い。
ずっと孤高に戦い続けてきた彼が掴んだ唯一のチャンスと仲間。
でもそれすらもこんな世界では簡単に潰れてしまうんだ。
自分は友情を貫いても周りは貫いてくれない(彼にはそう見えてる)。
ファイトクラブみたいなカタルシスがないクソッタレな世界でおまえだけイイ成長してんじゃねえよという彼の身勝手な叫びは胸が痛んだ。
リンさんにとって、バンクは自分の罪のダークサイド、もっと言えば成り得たかもしれない自分でもあると考えれば彼女の決断の重みが感じられる。
ラストシーンの後のことは直接描かれない分余計に切ない。
結局利害関係で結ばれていたとはいえ純粋で楽しかった高校時代の日々は二度と戻ってこないんだろうなぁ。

胃がキリキリと痛む緊張感と危機をすんでのところで回避する気持ち良さが交互に続くクライマックスも圧巻。
ピアノというアイテムがピンチを救ったかと思いきや集中をかき乱してくる悪夢感も最高。
ここから見てもわかるようにいわゆるアジア映画的なコテコテな感じもありつつ、かなり計算された演出が行き届いてたのも良かった。
嘔吐、涙、ドアの開閉、視線の連なり、学校のポスター、あらゆる対象・動作が別の意味を持って繰り返される。
黒幕に気づかずに仲間割れする2人の視野の狭さを捉えた格子越しのショットとかもカッコ良い。

あいつらのことを思い出すたびにこの映画のことを好きになる。
リン、バンク、グレース、パッとみんな大好きだ。
傑作!
つのつの

つのつの