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わたしは、幸福(フェリシテ)の小のレビュー・感想・評価

4.0
第67回(2017年)ベルリン国際映画祭審査員グランプリ(銀熊賞)受賞作。アカデミー外国語映画賞の予備選考9作品の一つに選定。アフリカのコンゴ民主共和国の首都キンシャサのバーで歌いながら、ひとり息子を育ているシングルマザーのフェリシテが主人公。

アフリカの社会や音楽に興味がなければ、面白くなく、退屈かもしれないけれど「深淵の底にこそ新しい可能性の種子がある」(アラン・ゴミス監督 パンフレットより)ことを描いた普遍的な物語。

ある日、最愛の息子が交通事故にあい、費用を前払いしないと手術ができないと告げられる。息子のために金策に走るフェリシテだったが…。

映し出されるのはサバンナではない、アフリカの都市のリアルな姿。内戦により国内各地から避難民流入で治安、衛生状況が悪化。国には地下資源が豊富に存在するとはいえ、富の分配は不十分で貧富の格差は拡大。都市では盗難が横行し、捕まれば鬱憤のたまっている人々からリンチを受ける。

そんな世界に立ち向かうフェリシテ。自分の理想像を思い描き、人の優しさを受け入れず、時に人を傷つけながら、妥協なく突き進む。しかし頑なな強さは脆さと表裏一体。自分一人の力ではいかんともし難い息子の交通事故に、フェリシテは打ちのめされる。息子は傷つき、プライドは砕かれ、ショックから歌声も…。彼女が大切にしてきたものは失われていく。

監督は言う。「『闘うことと受け入れること』という2つの対立から導き出されるものに興味があって、それが僕のすべての映画に共通するテーマともいえる」(パンフレットより)。

その2つの対立を、生と死、明と暗、主張と沈黙、バーの音楽とオーケストラ・合唱による演奏という対比を通じて描いていく。

闘いに敗れどん底まで落ちたとき、つまり本当の困難、破滅を前にした時フェリシテは、逃げたり、あきらめたりするのではなく、ありのままの自分を受け入れる。そして気付くのだと思う、「わたしは、幸福(フェリシテ)」だと。

●物語(50%×4.0):2.00
・フェリシテの自我再構築の物語。まずまず好き。トークショーで菊地成孔氏が絶賛し、「パンフを買え」というので行列に並んで買いました。

●演技、演出(30%×4.0):1.20
・無表情だからこそ光るフェリシテの笑み。対比の演出については、もう一度じっくり見てみたい。

●画、音、音楽(20%×4.0):0.80
・プロとして活躍するカサイ・オールスターズがバーで演奏。アフリカでは少ないオーケストラのキンバンギスト交響楽団などレアな音楽も。音楽ももう一度聞きたいかも。
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