ベルサイユ製麺

わたしは、幸福(フェリシテ)のベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

3.5
コンゴ民主共和国の首都キンサシャが舞台。コンゴの事、何かWikipediaとかで調べて簡単にまとめて書けないかと思いましたが、とてもじゃ無いけど無理でした。甘くない。心がどっと曇る。
検索して見つけた“VICE”の記事が素晴らしかった。文化的な面では〈サプール/サプーズ〉の話が興味深いです。

ストーリーはごくシンプル。
フェリシテはバーのシンガーで生計を立てている。ある日、病院からの電話で息子のサモが事故に遭ったと聞かされすぐに駆けつける。サモのケガは深刻で手術をしないと脚を切断するしかない。手術の費用やその後のケアの為のお金を集めないと…。
知人や職場、肉親、果ては面識の無い金持ちの家まで上がり込み金を恵んで欲しいと懇願するが、当然そう簡単にはいかない。
それでもなんとか金を掻き集めて病院に行くと…。

物語の構造やルックでなんとなくフィリピン映画『ローサは密告された』を思い出しましたが、あの作品ほど具体的なメッセージは有りませんし、結末もずっとポジティブな印象です。全体的にストーリーよりも雰囲気を味わう作品と言った印象です。
日の光がカンカンと照りつける白土剥き出しの街並みの中、ポテポテ歩く人たちは大らかなようにも疲れ切っているようにも見えます。バーの客たちは皆良い感じに酔っ払い、踊り騒いでいるのですが…、酒での失敗や窃盗で誰かが叩かれ出すと、寄ってたかって私刑を加えます。コンゴの市井の人々の、溜まりに溜まった鬱憤が見て取れます、と言いたいところですが、私達が日常的にネットで目にしている光景と変わりないとも言えそう。面と向かってで無い分、こっちはより悪質か…。
フェリシテがシンガーということで、冒頭のバンドでの歌唱シーンが素晴らしい。こんな小編成でこんな音域出るの⁈っていうバンドのアンサンブルにのって、日常の喜びも悲しみも全部飲み込んで吐き出すような歌声は、数値化も記号化も出来ない生の迫力で圧倒されます。(上手い下手とかは分かりません。)以降、劇中でコンゴの音楽が流れまくる…かと思ったのですが、そこは意外と控えめでした。もう少し聴きたかったけど…
そもそもこの作品、わたくしの最敬愛するSSWの七尾旅人さんが推薦ツイートしてた記憶がありまして鑑賞に至ったのですが、怠惰な凡人(以下)のわたくしの感性と、命懸けの天才表現者の感性ではそもそも受け取れるものがまるで違うのでしょう。天才板前が安楽亭の食い放題はしないものね…。
同様に自分感受性の乏しさのせいなのですが、フェリシテの歌の詞といい男が女に贈る愛の詩といい、なんとなくの雰囲気で分かる部分と言葉のチョイスのロジックを見失う部分とが入り混じっていて、ちゃんと理解出来ないのがなんとも口惜しい。コンゴ映画、ほんと少ないけどこれからも極力観るようにしなければ!

正直、娯楽性は低めなので万人にオススメはしませんが、ピンと来た!って方には観ていただきたいって感じであります。