TOSHI

30年後の同窓会のTOSHIのレビュー・感想・評価

30年後の同窓会(2017年製作の映画)
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年代で変化する男女の関係を描いた「ビフォア」シリーズや、子供が青年になるまでを実際の成長に合わせて描いた「6才のボクが、大人になるまで。」等、リチャード・リンクレイター監督の作品を観ると、映画は時間で出来ていると思わされる。
本作はベトナム戦争で共に戦った3人の、30年ぶりの再会という、また長い時間の流れを意識させるテーマだが、設定が2003年なのは原作に基づき、12年間企画を温めていたからのようだ。2003年はイラク戦争当時で時折、当時のニュース映像が挿入される。ベトナム戦争は勝つ見込みがないのに続けられた物だったが、イラク戦争も今では大義なき戦争とされており、二つが重なる事で、欺瞞に満ちた戦争によって、人生を決定付けられた人達のやるせなさが、浮き彫りになっている。邦題の「同窓会」はミスリードで、同窓会と言うような内容ではない。

酒浸りになりながら、バーを経営するサル(ブライアン・クランストン)の店に、30年間音信不通だったドク(スティーヴ・カレル)が突然現れる。インターネットで見つけて、来たのだと言う。ベトナム戦争ではサルは海兵隊員、ドクは衛生兵だった。友人は時が流れても、一瞬で当時に戻れる物だが、壮絶な戦争体験を共有しているだけに、再会を喜びながらも、複雑な部分がある事が表現されている。現在のドクは海軍の街であるニューハンプシャー州・ポーツマスの、海軍刑務所の売店で働いているが、今年、妻を亡くしていた。サルは50歳を超えても、独身だ。
一緒に来てほしい場所があるというドクが、サルに車を運転させて着いた、バージニア州・ノーフォークの教会。信者達に説話をしている神父は、乱暴者のミューラー(ローレンス・フィッシュバーン)だった。戦争時に片足を悪くしている。二人を妻と暮らす家に招いたミューラーだが、どうやら彼にとって戦争時代は黒歴史であり、当時を知る二人を煙たがっているようだ。しかしドクがイラク戦争で出兵していた息子を二日前に亡くした事を明かし、遺体の引き取りに行くのにつきあってほしいと頼むと、サルは即、了承し、ミューラーも妻に促され、渋々と同行する。

息子の遺体の引き取りを、30年連絡を取っていなかった旧友に頼みに来るという心理が分かりにくいが、それを頼めるような、普段つきあっている友人はいないという事だろうか。単に手伝ってもらうのが目的ではなく、精神状態として、配慮のある建前の優しさよりも、飾らず率直に踏み込んで来る本物の友情を求めたという事なのかも知れない。妻に続いて息子も亡くしたという大きな悲劇だが、悲しみの重さを感じさせながらも、30年ぶりに出会う旧友達の滑稽さによる、コメディ性が前面に打ち出されているのがユニークだ。
コメディ俳優のカレルが暗く、ナイーブな演技を見せているが、サルを演じた、渋い役柄が多かったクランストンの、“ガハハ系オヤジ”全開の会話・ギャグが笑える。ベトナム戦争を描いた「地獄の黙示録」の兵士役で知られるようになったフィッシュバーンの、戦争時の乱暴者が今は神父になっているというミューラーの役柄も、存在自体がギャグである。道中、ミューラーは乱暴な運転をする車に悪態をつき、本性が甦ったかのようだ。

三人はワシントンD.C.のアーリントン墓地に到着するが、面会場所はデラウエア州のドーバー空軍基地である事に気付く。夜通し車で走って迎えた、息子の遺体との対面。遺体の無残な状態、そして息子と同じ部隊だったワシントン(J・クイントン・ジョンソン)という黒人軍曹から聴く、死の真相。「戦死者は皆、英雄なのか」が焦点として浮かび上がる。基地の責任者であるガチガチの軍人であるウィリッツ中佐(ユル・ヴァスケス)と遺体の引き取りについて対立しながら、ドクはある決断をする。その後の、一筋縄ではいかない展開が面白く、三人のベトナム戦争での共通のトラウマも明らかになるが(ドクはある件で、二年間収監されていた)、ワシントンも交えた行路の末に、最後には静かな感動が訪れた。エンディングに流れる、ボブ・ディランの「Not Dark Yet」が余韻を残す。

息子の棺の前で、ベトナム時代にサルとミューラーが童貞だったドクを歓楽街に連れて行った等の下世話な話で盛り上がり、暗かったドクが初めて屈託なく笑うシーンや、3人で携帯電話を買い、サルがミューラーに「こちらは神だ。お前は天国には行けない」とイタズラ電話をするシーンが最高だった。

本作は「さらば冬のかもめ」の続編である、ダリル・ポニックサンの小説「Last Flag Flying」の映画化であり、キャストは刷新されているものの、精神性を引き継いでおり、物語としても対になっていた。「さらば冬のかもめ」は、ノーフォーク基地の募金箱を盗んだ兵士マルホールと、彼を護送してポーツマス海軍刑務所に送る任務についたが、盗んだ金額の少なさに対する刑の重さに同情する、バダスキーとメドウズの下仕官2人の道中を描く物語だったが(映画でバダスキーを演じたのがジャック・ニコルソンで、クランストン演じるサルに乗り移ったかのようだ)、本作はベトナム戦争中に捕まったドクが、ポーツマスからサルの元にやって来て、ミューラーも加えてノーフォークからワシントンに向かうという、アンサーストーリーのようになっていた。

リンクレイター監督ならではの、時の流れの美しさと残酷さが表現された作品だ。回想シーンを一切使わず、俳優の演技だけで、彼らが抱えた物や、30年の時間の流れを感じさせる演出が見事だった。構想に12年かけたという事実を知ってしまうと、「6才のボクが、大人になるまで。」のように、長年、断続的に撮影を続けたという凄みはないだけに、12年もかかるだろうかという疑問もあったが、長年会っていないかつての友人に会いたくなるような、心に残る良作だ。
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