柏エシディシ

切り裂き魔ゴーレムの柏エシディシのレビュー・感想・評価

切り裂き魔ゴーレム(2016年製作の映画)
3.0
未体験ゾーンの映画たち2018にて。
ちょっとB級感漂う邦題なのが勿体無いですが、なかなかの意欲作。オリエント急行なんて忘れて、こっちを拡大公開すべき!

タイトルから想起される通り濃霧立ち込める19世紀末ロンドンを舞台に無差別連続殺人鬼とスコットランドヤードのベテラン刑事(安定のビル・ナイ様)の対決、、という基本プロットなんですが、そう一筋縄ではいかない「仕掛け」が秀逸。

ダン・リーノ、カーク・マルクス、ジョージ・ギッシングら当時の実在の人物が殺人の容疑者として登場するのが荒俣宏的というか日本の創作歴史モノぽくって面白い。
そして、当時のミュージックホール文化やロンドンの様子を詳細に再現したセットは見もので、この手の怪奇ミステリーが好きな方には納得の出来映えではないでしょうか。

原作は海外でも高い評価を受けているミステリー小説との事ですが、惜しむらくはその作品の厚みを上手く取捨選択してブラッシュアップ出来ていない様に思える事。
前述の容疑者尋問シーンもせっかく面白いのに性急に過ぎるというか、見せ方がなんとも整理されていない感じで。
これでも充分面白いですが、もっと演出と編集に力のあるスタッフが手掛けていれば、とんでもない傑作になっていた様にも想像出来ます。

ともかく、何と言っても白眉はヒロインのオリヴィア・クック!
「ぼくとアールと彼女のさよなら」(超傑作!!!)でも儚さと強さを兼ね備えた白血病の少女を演じてましたが、本作では秘密を抱えた薄幸の未亡人を熱演しております。終盤のある「転回」はお見事。
女性の立場が今以上に厳しかった当時の状況を背景に、奇しくも今日的なステイトメントをも提示してみせてくれてます。私も思わず恍惚の表情を浮かべるリジーに心の中で拍手喝采を贈ってしまいました。

その背徳的な余韻が甘くて苦い、ダークミステリーの力作。
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