ノラネコの呑んで観るシネマ

判決、ふたつの希望のノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

判決、ふたつの希望(2017年製作の映画)
4.7
二人のおっさんの喧嘩から始まる裁判劇。
きっかけは些細なトラブルだが「謝れ!」「やだ!」の繰り返しから裁判に。
原告は極右政党を支持するキリスト教徒のレバノン市民、被告はパレスチナ難民。
小さな裁判はやがて、国を二分する大騒動になってゆく。
序盤は原告の傲慢さが強調され、より弱い立場の被告人に感情移入。
しかし、二人の極めてパーソナルな争いが、レバノン社会の内部分断の象徴となってくると、映画は原告がなぜこれほどまでにパレスチナ人を憎むのか、頑なに和解を拒否するのかにフォーカス。
見えてくるのは、不安定な中東情勢に翻弄され、長年にわたり内戦が続いた多民族国家レバノンの悲しい歴史。
この国では立場はある日突然変わる。
観客は見ているうちに双方の背負っているものを知り、自分だったら、この難し過ぎる裁判をどうジャッジするか考える。
導き出される裁判の結果は、日本の常識からはちょっと違ったもの。
あくまでもフィクションのドラマだけど、一触即発の厳しい民族対立のある社会では、言葉の暴力もまた物理的暴力と同じくらい危険なものということだと思う。
色々な立場で考えたくなる秀作。
ブログ記事:
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