mimitakoyaki

判決、ふたつの希望のmimitakoyakiのレビュー・感想・評価

判決、ふたつの希望(2017年製作の映画)
4.3
どこにでも起こり得そうな些細なケンカから、レバノンとパレスチナの歴史、難民、宗教、差別、憎しみと和解などの問題を見事に浮かび上がらせて問うてくる、その巧みさが見事でとても見応えのある作品でした。

レバノン人でクリスチャンのトニーとパレスチナ難民でムスリムのヤーセル、この2人のケンカの発端はほんの些細な事で、一言すみませんと言えば済むような話なんですが、その一言がどうしても言えない互いの背景があり、ありがちなケンカが暴行事件、さらには法廷闘争となり国内のレバノン人対パレスチナ人の激しい対立へと発展し、マスコミの扇動や互いの弁護士の立場の対立から、当事者の思いと離れて事がどんどん大きく膨れ上がっていくという話です。

パレスチナ人は1948年のイスラエル建国により侵攻され、街を破壊され、命を脅かされ、住み場所を追われて隣国レバノンやヨルダンに逃れ難民となりました。

500万人のパレスチナ難民のうち、レバノンには55万人がいると言われていて、ヤーセルも難民キャンプに住み、現場監督の仕事をしていますが不法就労です。

難民問題はレバノンに限らず、治安の悪化や仕事を奪われるといった危機感や自分達の立場が脅かされるのではないかという不安感、差別意識から排斥運動や極右の台頭に繋がったりもするものです。
この作品の中でも、虐殺事件や報復の連鎖が起きたり、レバノンに住み仕事を得た難民として生きる事の困難さはヤーセルから感じられるし、パレスチナ人を憎むトニーにも理由があったりもします。

戦争が生んだ悲しい歴史が続いてきた事で、個人としてのその人ではなく、民族や人種、或いは宗教、階層、右派か左派かといった属性でしか人を見れなくなり、差別意識や憎悪を募らせて対立してしまうのは陥りがちな事ですが、一人の人として接した時に、ほんの些細な事でも素直に感謝したり謝ったり許せたりして、心が通い合える瞬間が芽生えもする、そんなささやかでありながらも劇的な変化が印象的に描かれています。

トニーとヤーセルのケンカのように、ほんとはシンプルな問題なんだけど、事がどんどん複雑になりこんがらがって一筋縄ではいかないところまできてしまい、解決が難しい問題って世界にはたくさんあって、だけど、相手を知ることで何かが変わるし、対立を乗り越えられるという希望を彼らに象徴させたように思えました。

81
mimitakoyaki

mimitakoyaki