ボサノヴァ

判決、ふたつの希望のボサノヴァのレビュー・感想・評価

判決、ふたつの希望(2017年製作の映画)
4.0
一見、均衡状態にある事態も、ある一つの出来事をきっかけに脆くも瓦解してしまう事は少なくない。それは、事態が根本から解決しておらず、当事者同士が平穏な日々の営みと引き換えに、それぞれの思いを封印しているに過ぎないからだ。

今回の事件の発端も、物静かで仕事熱心な初老の男が自分の仕事にケチをつけられて発した、たった一言が始まりだった。言ってしまってから、戸惑ったような表情を浮かべていたのが印象深い。きっと、奥底に秘めていた自身のドス黒い思いに気づかされ、驚いたのであろう。

一方の男はレバノン人で、何やら最初から怒っている。相手がパキスタン難民と見るや、理不尽なまでに口撃をする。とにかく謝れ、と。しかし難民の男は、謝罪を頑なに拒んだ。それは、職業人としてのプライドであると共に、民族への偏見や宗教対立に振り回されてきた人生に対する肯定でもあったのだろう。

つまり彼らは、もともと対立構造にあったわけだ。両者の立場がはっきりした後、あとは転がる石のように状況が悪化していき、終いには裁判沙汰となっていくのだが、ある事実が明らかになったことをきっかけに、事件は思わぬ展開を見せる。

中東・移民問題が主題ではあるものの、どこの世界にもある二項対立とその落とし所を探る映画なので、我々日本人が観ても腹に落ちると思う。アメリカ商業映画出身というレバノン人監督の妙にサバけた演出力で、後味スッキリに仕上がっているのも驚き。しかも完全なる創作という事で「事実に基づく映画」が多い昨今、特に評決の結果などに、クリエイティビティを感じた。

家族や仲間を巻き込み、苦しみながらも、己と向き合い、真剣に戦った者同士が辿り着くラストシーンには胸が熱くなった。ふたつの希望、いいタイトルじゃないか。

怒りや偏見が跋扈するこんな世の中だが、その裏にある悲しみをお互いが知るとき、初めて真の和解が始まる。日本人と、周りの国との関係だって同じだ。いつまでも気持ちに蓋をしていてはいけないのだ。
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