監督自身の経験談だったのかと後から納得したのは、“家族4人”のリアルで生々しい感情をひとりひとり見事に切り取っていたから。
冒頭、だるまさんが転んだっぽいお遊びからの少年のセリフは、余韻としては少しあざとい残り方をしたが、その後じっくりと描かれる少女の彷徨う心は、ラストでまるで少女の実の母親になったかのように、観てるものの感情を激しく揺さぶることになる。
監督であるカルラ・シモンが7歳を迎える1993年の夏に起きた出来事。
劇中の少女は母親の“とある病”のために病院に会いに行くことも許されず、ある日突然、親族から最愛の母親の死を聞かされる。
“最愛の人が突然いなくなったことをどう受け止めるか”
ここ最近で言えば 山火事と戦う「オンリーザブレイブ」や8月25日公開となる「クリミナルタウン」でも描かれている比較的、王道なテーマの1つだ。
それは大抵、各自が自分なりに理屈と感情の収まりどころを模索していき、時間という効き目が緩やかな漢方薬を生涯の相棒とすることで、なんとかその苦しみを自分の心の“味方”としていく。
今作の場合の少女はまだ幼いがゆえに、“生死とは何か”から学ぶ必要があった
劇中ではまず、3つの“血”がとても上手く演出されていた。
それは
生きる力を確認するためのもの
命を作るために必要なもの
そして、命を絶つ時に流れるもの。
母親の命を奪った“血”の多様性に触れたことで、少女は直感的に “生命”とは何かを段階的に感じ取っているようだった。
更には、無邪気さに襲いかかる危険を幾度と描くことで、死は生の内側に潜んでいることを伝え、しかも、生を大切に見守る存在として“両親”の温もりにまで繋がりをもたせていた。
その過程を経て、分け隔てなく与えられた温もりを素直に受け止め、ようやく収まりどころを見つけた少女の心は、生きる喜びを知ると同時に死の悲しみをも感じることになる。
今作のラストはとても素晴らしい。
母親に捧げるテロップ、そこに込められた監督の想いに、この映画の全てが凝縮されて詰まっている。