純

悲しみに、こんにちはの純のレビュー・感想・評価

悲しみに、こんにちは(2017年製作の映画)
5.0
優しくされると泣いてしまうほど、やわらかい夏の日差しがあった。永遠色をしているその季節が、ほんとうは一瞬でその姿を消してしまうこと。まるで命のようだった。切ない光にきらきらと包まれて、嘘みたいに踊り続ける昼と、影の隙間で少し震えた憂鬱と、気づかないうちに抱きしめられている夜。全部わたしたちのもの。幸せは減ってない。失ってなんかいないのでした。

愛の贈り方はひとそれぞれで、だから戸惑ってしまうことがある。やっぱり自分の知っている愛が居心地よくて、新しさを素直に受け取れないのかもしれないね。上手くやっていきたいと願う気持ちの強さだけ、相手に伝わるように優しくしたり、頼ってみたりできたらいいのにな。言わなくてもわかってほしい気持ちを、ほんとうは皆知っているんじゃないかと思う。「さみしい」や「いとしい」が言えないから、こうやって触れて、撫でて、確かめさせてほしいわたしたち。静かに抱きしめるこの時間に、言い残した愛を、愛を、ゆっくりあなたに渡していきたい。

家族と呼ばれる関係性に、必要な月日はあるのかな。血が繋がっていてもいなくても、他人であるからこその気遣いやわがままはあって、その中でどれだけ優しさを大切にできるかが、絆を作り上げていくのだと思う。子どもだから直せない幼稚なふるまいだとか、大人だから耐えられる苦労だとかは、ほんとうはないんだよね。皆抱えるものは違っても、求めているぬくもりは同じだ。理由なく涙を流せる居場所を、わたしたちは何度見つけたっていいよ。消えそうな気がするあの光も、今手に入れた笑い声も、全部全部あなたのものだから大丈夫。寂しくなったら、いつでもここにおいでね。

1993年の夏。
純