きまぐれ熊

スパイダーマン:ファー・フロム・ホームのきまぐれ熊のレビュー・感想・評価

4.2
詳しくない人からすればスパイダーマンって「あれでしょ、手首から糸出せるヒーローでしょ?」位の認識だと思うけど、
手首から直接出るのってサム・ライミ版の設定なので大体の作品では自前でシューター作ってるんだよね。アイアンマンに近いエンジニアタイプの才能。

そのほかの能力として、実は怪力がある。なんならマーベルヒーロー内でも上位のレベルで強いみたい。だけど、とりわけMCU世界においてはトニーのスーツ技術もあるしシールドと協力することもできるしで、ピーターの頭脳があれば怪力がなくてもスーツ機能による技術面で幾らでもカバー可能だろう。

そうやって選り分けてみると、スパイダーマンを強いヒーローたらしめている異能のうち最重要なのってスパイダーセンスだと思うんだよな。
スパイダーセンスはクモの第六感ってやつで、肌で危険を感じ取り危機回避する本能だ。
エンドゲームで最前線に急行できたのもまさにこの能力のおかげだ。

そのスパイダーセンスにフォーカスした今作はスパイダーマンの能力における本質的な強さを描いている作品だと言える。

本作のハイライトは、そのスパイダーセンスを存分に発揮した暗闇の中での大立ち回り。
ウェブシューターも壊れて、自分の感覚だけを信じて暗闇を突き進む姿がスパイダーマンというヒーロー像を明確に表現している。
それと疑心暗鬼のなか狭い空間で繰り広げられるパーソナルな戦いは、宇宙規模に拡がった前作の総力戦とは対照的なのが興味深い。MCUはシリーズで流れを作るのが本当に上手。

重力を無視してダンスのように流れる殺陣はこれまでの全作品群のアクションの中でも上位に入る美しさ。それを実現させたトムホランドの身体能力が、ダイレクトにこの映画の魅力を形作っている。
生身で戦闘機を落としたウィンターソルジャーのキャップに張るくらいの動きのキレ。

そしてこのスパイダーマンにとって1番重要な能力を“ピーターむずむず(Peter tingle)”とかっていうユルいティーンのノリで表現しちゃうところが本シリーズの特徴的な魅力を端的に示していると思うんだよね。
MCU内においても独特だし、これまでのスパイダーマン映画シリーズと比べても異質。

そのピーターが明るくユルいノリのまま大切なものを守る美学を貫き通せるのか、原作準拠で悲劇のドミノ倒しになだれ込むのか、今のところ全く想像できない。

既にMCU作品群において大きな番狂わせが起こっている以上、どっちに進んでも全く不思議じゃない。予備知識があってもなくても予想できないんだこのシリーズ。気を持たせるのがめちゃくちゃうまい。
でもここまでの傾向として、MCUはシリーズや原作、個別の要素をバラバラに組み替えながらも本質は見事に再現してきているので、今後不幸の特盛セット展開がくるんではないかと思っている。

まあ何が言いたいかっていうと、
おどけながら決めるときは決めるキラキラとした格好良さは、フェイズ4が始まる前の今のうちじゃないと素直に楽しめないかも、ってことが言いたかった。
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