茶一郎

スパイダーマン:ファー・フロム・ホームの茶一郎のレビュー・感想・評価

3.8
 脂っぽいロースカツを食べたら付け合わせのキャベツを食べて胃を休めて…と、完全に自分がMCUの手の平の上で踊らされている事に気付く『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』。
 MCUフェーズ3の最後を飾る本作は、さながらフェーズ2の大トリを務めた『アントマン』のように軽くて明るく笑える良い意味で『アベンジャーズ:エンドゲーム』の大味を薄めてくれる…あっ…もう私、MCUの胃袋になっています……

 大味を薄めてくれると言えば冒頭、全世界が注目したであろう「『エンドゲーム』の後、何を描くんだ?」という興味に対し、Windowsムービーメーカーで作ったような安っぽいヒーロー追悼映像でアンサーするあたりMCU製作陣の懐は深い。ホイットニー・ヒューストンの♪I always love youを効果音に重ねるという安っぽさの二乗で、つまるところ『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』は『エンドゲーム』の悲劇をギャグにして開幕します。

 物語の軸となるのは、蜘蛛にかまれた事でスーパーパワーを手に入れた蜘蛛男ことピーター・パーカーが夏休み、学校企画のヨーロッパ旅行で気になるMJにお近づきになりたいというお話。
 前作『エンドゲーム』とは比較にならないほどに地に足の着いた物語ですが、監督のジョン・ワッツは「青春映画の系譜には『ヨーロッパ旅行モノ』の系譜がある」と指摘し、本作を撮るにあたり参考にした三作品を列挙しました。1作目は『ナショナル・ランプーンズ・ヨーロピアン・ヴァケーション』、2作目『ガッチャ!』(サバゲー男子がヨーロッパ旅行で大人の陰謀に巻き込まれるという本作のプロットと類似)、そして三作目『ユーロトリップ』(飛行機に乗る前にネッドが「ヨーロッパで恋人を見つけよう」と言うのはこれの影響)です。
 前作『ホームカミング』が『フェリスはある朝、突然に』を劇中映画で引用した、ジョン・ヒューズ監督作に直接的な影響を受けた作品だったように、やはりトム・ホランド版スパイダーマンは青春映画をベースにしたヒーロー映画でした。

 そんなピーター・パーカーの青春物語と同時に語られるのは、スパイダーマンとしての「次のアイアンマンになれるか」という葛藤です。前作ではアベンジャーズになりたくて、アイアンマンになりたくて背伸びした結果、「アイアンマンの真似をするな」と叱られていたピーター。本作ではその反対に、「アイアンマンになれ」とニック・フューリーからのパワハラを受けます。
 とても興味深い逆転構造とピーターはアイアンマンになれるのか?といったテーマ。ハッピーがピーターを見て微笑んだ時に、私も『アイアンマン』のトニーがピーターに重なり落涙しました。フェーズ3の大トリは「世代継承」を強調し終わる、笑って泣く大エンタメ作品でした。
茶一郎

茶一郎