つかれぐま

スパイダーマン:ファー・フロム・ホームのつかれぐまのレビュー・感想・評価

4.0
7/1 大泉#2字幕

このデザートは甘くない

「エンドゲーム」で陶酔状態の我々を現実に引き戻す、フェイズ3のクローザー。デザートというよりもしっかり苦いブラックコーヒーか。

「ホームカミング」では、悩まずすぐ行動!だったピーターが今回は成長。ヒーローか、普通の高校生活か、自分は何者になるかという「自我同一性の獲得」に悩む話。そんなピーターの成長を、大人として劇中のハッピーのように微笑みながら見守る・・。

うん、「エンドゲーム」の箸休めとしてちょうど良いじゃないか、という此方の甘〜い期待は見事に裏切られる。すでに同一性を獲得した我々いい大人も、ピーターの悩みの渦に放り込まれるような巧みな構造で、いい意味で箸休めどころではなかった。

** 以下ネタバレします **

(トニーに代わる新たなメンターとして)ベック@ミステリオを信頼しかけていたピーターは裏切られてしまう。ベックがヴィランであろうことは、原作を知らずとも、怪優ギレンホールの配役を聞いた段階で読んでいた。が、彼が別アースから来たという設定含めて全てが虚構だったという二段階目のツイストに揺さぶられる。

MCUが仕掛ける世界観の拡張を、歴代の作品で楽しんできた我々には、この「全部作り物でした」と梯子を外される「寄る辺なさ」は不思議な感覚。「エンドゲーム」で流した涙はなんだったのか?という気にさせる程に揺さぶってくる。MCUに(広くは映画に)コミットしている我々ファンのアイデンティが、劇中のピーターのそれと同様に怪しくなるのだ。

そこからの「見たもの全てを信じるな、自分のムズムズと(手を繋ぐ)スキンシップを大事にしようぜ」という着地は、過ぎるほどに正しいのだが、MCUよ、お前が言うのか!という驚き。大胆な思い切りには感服した。

「ムズムズ」をあえてスパイダーセンスと言わなかったのは、こうした万人に共通するメッセージにするためだったのかな。

3組の恋愛模様はどれも微笑ましく、
最後のネットニュースも「ああサムライミ版のJKシモンズに似せて来たのか、細かいな」と思っていたら、なんと本人でやんの!尻尾の先まであんこが詰まった鯛焼きのようなサービスぶりが凄い。

あと、ジェイクギレンホール(安田顕似)が最低で最高だ。「ナイトクローラー」と同様、ヴィランというよりもクズ男。こういう役をやらせたら今一番の怪優。