Inagaquilala

ダンシング・ベートーヴェンのInagaquilalaのレビュー・感想・評価

3.7
これは得難いドキュメンタリーだ。2014年東京で行われた奇跡のステージを、そのスタート段階からスイスのローザンヌと東京を結びながら、追い続けた作品。バレエ界に革新をもたらした振付家モーリス・ベジャールの代表作であるベートーベン「第九交響曲」。ベジャールの遺志を受け継ぐモーリス・ベジャール・バレエ団と東京バレエ団がコラボレーションしてひさしぶりに企画されたその公演までの紆余曲折がしっかりとカメラに収められている。

ベジャールの後継者であるジル・ロマン芸術監督の娘で、マリヤ・ロマンをインタビューに据えたのもダンサーの内面を語らせるのに功を奏している。ダンサーの道を歩みながらも途中で女優に転身したキャリアを持つ彼女の起用は、言葉をあまり持たないダンサーたちの胸のうちを代弁するという意味では、適役だったかもしれない。このナビゲーターの存在が、このドキュメンタリーに複雑な重みを与えている。

もちろん、繰り広げられるダンサーたちの踊りも素晴らしいのだが、それぞれの人間模様にまで踏み込んだ演出力は評価されるべきであろう。クライマックス、ズービン・メータの指揮で披露される「踊るベートーベン」は、やはり圧巻のステージだ。本来これを見るだけでも価値のあるものなのだろうが、ステージが成立するまでの軌跡と関わる人間たちの内面まで追いかけたこのドキュメンタリーはバレエファンならずとも興味深く観ることができる。
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