マクガフィン

モリのいる場所のマクガフィンのレビュー・感想・評価

モリのいる場所(2018年製作の映画)
3.7
30年間一歩も家の外へ出ることがない95歳の画家のある一日を描いた物語。
昼間はもっぱら自宅の庭で生命を見つめ続けて、夜は学校と呼ばれるアトリエで絵を描き続けたのだが、熊谷守一のこれまでに見てきたシンプルな絵が庭の鳥・昆虫・猫・花などの身近なものがモチーフとなっていたことに驚く。

仙人と呼ばれているので、頑固で気難しく、へそ曲がりかと思いきや、変っていはいるが子供のような純粋な気持ちを持つことは、独特な画風の説得力に繋がる面白さがある。多くの人がモリの家に訪れることは、モリや夫婦の魅力でもあり、観察しているアリのようにも。

好きな役者である、山崎努と樹木希林の兼ね合いが抜群で、見ているだけで楽しい。特に山崎努の演技力が如何なく発揮する静かで奥深い演出が秀逸で、面白みに欠ける役が多かったが近年のベストアクトに。

モリにとっての庭の世界観はミクロコスモスで、そこでの宇宙人との会話よりモリのなりが分かる「生の肯定」ようなシーンは良いが、文化勲章の内示を断ったシーンでの、テイスト違いのコントのような頭上にタライを落として笑いを取る昭和ノスタルジー的で世代間の隔たりが大きい描写は如何なものか。

冒頭の美術館でモリの絵を見た素朴な質問が、95歳にしてなお子供のように興味に満ち溢れていることを物語る。モリの生活と対照的な近代的な一点透視構図の建物がまた味わいを付加する。

緩やかな時間が流れるようで、また季節が移ろうするような時の流れを一日の出来事にしたことに感心する。
ラストの俯瞰のシーンは、それまで見てきたミクロな世界と一緒のようなことや、様々な生命が失われる歳月の経過の前触れのようなで、何とも言えない味わいが忘れられない。