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モリのいる場所のおーたむのレビュー・感想・評価

モリのいる場所(2018年製作の映画)
4.4
最近ちょっとお気に入りになってきた沖田修一監督の最新作を借りてきました。
山崎努、樹木希林というスゴいキャストにも惹かれて、期待値高めで見てみましたが、期待どおりに面白かったです。

「画壇の仙人」と呼ばれた実在の画家、モリこと熊谷守一と、妻の秀子が主人公。
熊谷家の、ある一日を描いた作品です。
不勉強なもので、私は、この熊谷守一さんのことを全く何も知りませんでした。
なので、序盤、モリが家の周りの自然を散策するのを見て、てっきりこの家族は緑に囲まれた山奥に住んでるんだなと思い込んでしまい、後でけっこう驚きました。
しかし、本作の舞台である熊谷家の庭には、あまり狭さを感じないんですよね。
序盤に多用されていた、寄りのカットの効果かなと思うんですが。
たぶんあれは、モリが万物を見つめる目線の近さの表現であり、あれだけの近さで自然を見たら、そりゃ、箱庭の世界であっても果てしなく広いですよね。
その果てしない広さが、映像のみによって見事に表現されていたからこそ、私はこの庭の広さを錯覚したんだと思います。
この庭なら、もしかすると宇宙とつながることがあるのかもしれませんね(笑)

客の一人が熊谷家を後にし、画面に家の外側が映されるに至って、箱庭の宇宙は元の大きさに戻り、そこからは“熊谷家のある一日”という感じのストーリーになります。
普通の一日、だけど、豊かな一日です。
数多く訪れる来客たちや、夫婦間、あるいはモリと自然という関係性の中で、多くのやりとりがなされますが、そのやりとりの中にある、真理や、おかしみ、喜びに気づくたび、ちょっと幸せな気分になります。
寄せては返す波のように、熊谷家に人々が訪れ帰っていくのは、モリとの対話が、その人にとっての進むべき道を照らす、灯台のようなものだからかもしれませんね。
ん、でも、モリが灯台なら、熊谷家への訪問客たちは、波じゃなくて船かしら?
いや、まあそこはどうでもいいか。
さておき、熊谷守一という人物の奥深さを見せると同時に、何でもない日常の豊穣さを見せる手腕は、さすが沖田修一、さすが山崎努&樹木希林といったところです。
好きな映画になりました。

なにやら、変に狙いにいったような演出があったりして、「ん?」と思わされたりはしましたが、そういったファンタジーな表現も、本作の持つ不思議で柔らかい空気にはマッチしていたように見えました。
狭い空間を舞台にしながら、外部へ旅立つのではなく、その内部を突き詰めていくという筋立ても、個人的には新鮮でしたね。
監督の手腕も、両主演の熟練の業も、きちんと堪能できる、良い作品です。
これは絶対、また見るやつだなぁ。
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