mimitakoyaki

シリアに生まれてのmimitakoyakiのレビュー・感想・評価

シリアに生まれて(2016年製作の映画)
4.5
国連UNHCR 難民映画祭2017にて。

2011年からのシリア紛争により美しかった街は灰色の一面の瓦礫に。
家族や近隣の人が空爆で命を落としたり家が焼かれたりする中、トルコへ逃げ、そこからヨーロッパにゴムボートで命からがら逃げて来た難民のうち子ども7人に焦点を当て、辿り着いたギリシャの海岸から彼らがどうなっていったかを追跡し丹念に映したドキュメンタリー作品です。

とにかく壮絶。
空爆で街が破壊され死を身近に見てきただけでとてつもない恐怖から心の傷になっているのですが、シリアから何ヶ月もかけて歩いたりボートで海を渡ったりして、命がけでヨーロッパに着いたものの、大量に押し寄せた数百万人もの難民を受け入れるのはどの国だって困難で、路上や粗末な難民キャンプで何ヶ月も過ごしたり、大好きな母親や兄弟と離れ離れになったりと、子どもがこんなに過酷な体験を強いられた事にとても悲しい気持ちでいっぱいになります。

アサドとアメリカとロシア、そしてISIS、そこにクルド人勢力も加わり大国の思惑も複雑に絡み合ってとんでもない泥沼と化したシリア。
大国は武器も売りまくってビジネスとして旨味があっただろうが、そこで街や愛する家族、平穏な暮らしを奪われた人々にとっては理不尽極まりないわけで、難民を生み出した戦争に対する憤りを感じずにはおれません。

ヨーロッパでは一気に押し寄せた難民の受け入れを巡って大混乱。
EU諸国の中でも国によって受け入れのスタンスに違いがありますが、難民を他のどの国よりも大量に受け入れたドイツですら、難民にとってはとても厳しいものがあるようです。

ヨーロッパだと言葉の壁もあるし、難民申請や住居や仕事を確保することはすごくハードルも高くて、海さえ渡れば何とかなるだろうという期待は打ち砕かれ、次々と新たな困難が待ち受けている。

そんな難民の置かれている現状を知って、自分の無力さにもまた打ちひしがれました。
毎月UNHCRに難民救済のための募金をするくらいしかできなくて、本当にもどかしい。
これだけ世界の深刻な問題となっている難民を日本ではほとんど受け入れてないという事実にも愕然とさせられます。

戦争を終わらせるために国際社会が協力し合っていく事、今いる難民に対して人道支援をしていく事が、当たり前だけどとても大事なことだと映画を見てあらためて思いました。

トラウマを抱え、不安や寂しさや恐怖に苛まれ続けた子どもたちなのに、笑顔で遊び、友達をつくり、新しく言葉を覚え、行った先の国に馴染もうとしていく逞しさは唯一の希望です。

これからは命の危険に脅かされることなく、夢や希望を持って生きて行ってほしいし、いつかは故郷であるシリアに帰れる日が来ることを願わずにはおれません。

ニュースではなかなか知ることのできない事を伝えてくれ、考えさせてくれる貴重な作品なので、一般的に劇場公開して、1人でも多くの人に見てもらいたい、知ってもらいたい、それだけの価値のある作品だと思いました。

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