Nagi

アレッポ 最後の男たちのNagiのレビュー・感想・評価

アレッポ 最後の男たち(2017年製作の映画)
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星いくつとかで評価なんかできません。
シリア第二の街アレッポで暮らす、アサド政権に対する反体制派の人々は日夜襲ってくる政権側やロシアの空爆やミサイルに怯えて生活している。そんな中、爆撃地にいち早く駆けつけ瓦礫の中から人を助け出す…時には遺体を運び出す…男たちがいる。白いヘルメットをかぶって救助にあたる彼らは通称ホワイトヘルメット。この映画はシリア出身でトルコへ命からがら移住したフィアス・ファイヤド監督の指揮のもと彼らの素顔に身を寄せてその「日常」を記録したものである。

まるでハリウッドの戦争映画のようだ。空爆機から降り注ぐミサイルと、爆薬や金属片を樽に詰めた樽爆弾。車は燃え、バラバラになった手足や服。爆弾はまるで花火みたいにバチバチドンドンという音を響かせ、しかしそれで散るのは鮮やかな火花ではなく何の罪もない一般市民たちの命。しかしこれはスタジオのセットでもなんでもなく今もたしかに起こっている事実であり、アレッポの「日常」なのである。
今日もどこかにミサイルが落ちる。子供の無残な遺体を前に泣き崩れる父親、血だらけだが命からがら助けられた子供の笑顔。同胞であるアラブ諸国は何もしているんだ?なぜ我々を殺そうとするんだ?そんな質問はもはや愚問に過ぎない。そんな理不尽極まりない状況でも、決して故郷であるアレッポを離れない男たち。トルコへの亡命にしても命の保証はなく、国境線付近の立ち往生も日常茶飯事。「おれは故郷を離れない。家族と一緒にいるんだ。家族も遠くには行かせない。家族が死ぬときおれはこの目で見届けたい。」日本という環境では決して考えることのできない「非日常」という「日常」の中で暮らす男たちの信念を目の当たりにして心を打つものがあった。戦争の悲惨さ、そしてそれと対比する笑顔。そんなものを通してアレッポのリアルを目に焼き付ける。しかしその結末はあまりに惨すぎる。
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