Osamu

アレッポ 最後の男たちのOsamuのレビュー・感想・評価

アレッポ 最後の男たち(2017年製作の映画)
4.0
内戦が続くシリア。政府軍に包囲された街アレッポに留まる反体制派の市民。繰り返される空爆の被災市民を救出するホワイト・ヘルメット隊員を映すドキュメンタリー。

現実なのか非現実なのか分からなくなる。

外壁が崩れ落ちたビルが静かに立ち並ぶ街は非現実感に溢れている。何者かのスーパーパワーにより住人たちが別世界へ空間移動させられ、取り残されたビルは時間の早回しにより朽ち始めている、そんなSF映画の映像のようだ。そして、そこに住人の姿を認めたとき、非現実感は更に強くなる。こんなところで人間が生きられるはずがない、と。

しかし、そこで彼らが生きているのは現実であり、彼らは守られるべき市民であるはずなのに、守るべき国により攻撃されるというウソのような現実が世界を歪める。その歪み具合は圧倒的で、観客は複雑な迷路から出られなくなる恐怖を覚える。

その歪められた世界で死の淵から命を拾い上げようとするホワイト・ヘルメット隊員の苦悩は想像不可能なくらい深いであろう。瓦礫の下から引き出した体が既に息絶えていたときの絶望感はスクリーン越しにも重く伝わってくる。この理不尽な仕打ちは何故なのか。現実とは到底思えない。

彼らに訪れる出来事や感情は、台本があるかのように整然とした物語を描く。フィクションと見間違うほどだ。そしてフィクションを完成させる結末に現実を見せつけられる。
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