ベルサイユ製麺

サニー/32のベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

サニー/32(2018年製作の映画)
3.3
瀧さんの事を書きます。
90年代中頃。新宿リキッドルーム。ワープナイトだったか、ロラン・ガルニエだったかのパーティ。騒ぎ疲れてフロアとブースを区切る柵にもたれかかって、音圧で身体をビリビリさせながら(当時のリキッドのパーティは気がおかしくなるくらい音がデカかった。二、三日は耳がバカになった)その素晴らしいプレイに恍惚としていると、…急に辺りにハンバーグの匂いが立ち込め出した。匂いを辿って振り返ると、真後ろに、ハンバーガーを咥えたピエール瀧。(遊びに来てたのでは無くVJしに来てたのです)
ストロボ、ミラーボール、なんかの煙、爆音+αの甘美なるラリラリの非日常の空間にあって、光のカケラを浴びながら真顔でハンバーガーを貪る瀧さんの姿は、ふわふわ気分の自分を一発でアジア丸出しの間抜けな日常に引き戻す絶対的な存在感を放っていた。(電気ファンとしてのリテラシーは高い方なので声は掛けなかった)
別段容姿が端麗な訳でもスキルがある訳でも無い瀧さんが、こんなにも役者として重宝されていた理由は、このリアルな存在感と“幻想吹き飛ばし力”にあるのだと思う。今回の件で、瀧さんの役者としての魅力が増すことは有っても、減る事は一切無いでしょう。復帰後の活躍を楽しみにしています。ラジオでの気さくでちょっと不遜なおじさん的なキャラクターには残念ながらもう逢えないとは思いますが。
卓球さんの事は、タイミングが有れば書こう。

映画の事を書きます。
今作『サニー/32』は、もうホントに変わった映画でした。白石監督作品の中でもとびきりキワキワなライン。

…かつて友達の女の子を殺してしまった少女のニュースで世間は持ちきりになった。直ぐに加害少女の写真が流出して、その愛らしいルックスから偶像化、神格化され、左右の指3本、2本立てる独特のダブルピースのポーズから“サニー/32”と呼ばれ、事件から14年経った今でもカルト的なファン、信者はネット掲示板などでサニーを崇めている。
中学の女教師、赤理。自分の生活を見張るストーカーの存在に悩まされている。24歳の誕生日の夜、いきなり2人の男に拉致され、古い家屋に監禁される。男は言う。「会いたかったよ、サニー」

見るからに冷徹そうな大男、柏原(ピエール瀧)と、ちょっとアレな感じのヘラヘラしたオッサン小田(リリー・フランキー)。2人に拉致された“サニー”こと赤理は、サニー信者たちに…

…あー、上手くストーリー書けない!とにかくめちゃくちゃな話です。掻い摘むと…サニー信者のヤバイ人達が次々と現れ、追い込まれた赤理は、遂に“一番ヤバイ人”サニーとして覚醒!カリスマ性を発揮し誘拐犯、信者を従えカルト化。ネットの人生相談(?)などで徐々に影響力を拡大していく“サニー”赤理の元に、信じられない報せが…!
あー、やっぱり書けない、と言うより分からない…。
《自我・自意識・SNS・現実・愛・依存》などのキーワードを万華鏡に放り込んでクルクル回しながら弱い視力で覗き込んだような感じ。意図してかは不明ですが、新井英樹作品で見かけたパーツやシチュエーションがてんこ盛りです。「面白そう!」って思いましたか?…面白い部分も有ります。でも…
この法螺話を面白おかしいバカ負けエンターテイメントに仕上げるには、白石監督はちょっと誠実過ぎるのではないかしら?観客側にもなんとなくそういう認識が有るので尚のこと。これが例えば小林勇貴監督とかだと大分違いそうなのです。
個人的にはダークコメディなのかシリアスなサスペンスなのか判然としない前半1時間くらいがとにかく苦痛でした(全てが意図してかもしれません)。全体的に集中力を欠く散漫な空気感で、勿論それはバジェットのせいもありますが、それよりも明確にマズイのはメイン3人が専業の役者では無いって点です。それで良くなる場合も有るとは思いますが、今作のように大嘘に魂を吹き込むにはそれなりの技巧が必要なの筈。瀧さんもリリーさんも、メインがどっしり構えてる脇で異様な存在感を醸すタイプ。なのに…、特に主演の女性の演技はちょっと直視に耐えないレベルに感じられました。(作劇上の意図の部分を差し引いても…です)アイドルなのだったら個人的には、寺嶋由芙さんとかで見てみたい役ですね☺︎(←ホント酷い…)
なので、後半の完全にダークコメディに振り切れてからの、所謂“斜め上展開”は真面目に見なくて良いと割り切れたので、開放感もあり充分楽しめました。正直なところ根本的にこの映画が何を言わんとするのかは正確には測りかねていますが、舞台挨拶等見た限りだと出演者の皆さんもピンと来ていないみたいなので無理からぬ事だと思います。中でも「登場人物、誰の気持ちも理解出来ない」と強い拒否(?)反応を示した門脇麦さんが、1人圧倒的に強い光を放っていたのが興味深かったです。彼女のおかげでギリギリ茶番に成らずに済んだのではないかな。…本職の凄み?単にファンだから?

現状、この作品に関しては“ノレなかった”という感想になってしまってますが、個人的には白石監督には“ハードボイルド、犯罪映画の職人監督”なんかには絶対になって欲しくなくて、なので出来るだけ多くの作風にトライしてみて欲しいです。いつかフィルモグラフィを振り返った時「思えばサニー/32がターニングポイントだったな」なんて言ってるかもしれない。期待しかない。白石監督愛してます。

ソフトに映像特典として舞台挨拶やメイキングが入っているのですが、コレを見ちゃうとこの作品の事、とてもじゃないけど嫌いになれません。肉親以外で唯一の瀧さんをマー坊と呼ぶリリーさん。今、どんな気持ちなんだろう。(てっきりリリーさんルートで、大根辺りまで行くかと思ってたら、TASAKAルートでしたね…)
初日対挨拶の4分目辺りに驚くべきやり取りがあります。瀧さんの胆力やっぱりスゲエな…。

あと!劇伴、agraph・牛尾 憲輔なんですよね!とても良い仕事です!(仕事も減ってると思うので)このまま劇伴仕事も継続して和製junkie XLみたいになって欲しい。エンド曲、牛尾と田渕ひさ子のLAMAチームでしたね!ひさ子さんの歌唱でもベストの部類だと思います。買お!顔!!

久し振りに聴いた超名盤『電気グルーヴとかスチャダラパー』。8曲目“目ゲキ者‼︎‼︎”の辺りで存外に泣けてしまった。そうだ。やっぱり瀧さんが居ないなんて耐えられねぇよ!