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最初で最後のキスのMURSJのレビュー・感想・評価

最初で最後のキス(2016年製作の映画)
4.2
無敵のロレンツォを殺すのはたった一度のキス
無知と無理解から生まれる嫌悪、恐怖にさらされるキツい現実をサバイブするために別の世界を空想しひと時避難するのは多くの人に経験があるでしょう。 ロレンツォの想像やブルーの語りを架け橋にして行き来する空想世界があまりに魅力的で、排除されようとする者の中にこそ美しいものがあるという力を感じます。
自分の世界が他者とリンクする瞬間、そのときめき。そしてこの幸福は危ういバランスで成り立っていたことが、 些細なすれ違いから 3人の運命が取り返しのつかないことになることで暴かれる。

この作品はラリー・キング殺人事件という実際の事件がモチーフになっていますが、観客の心の動きに呼応するように、事件の解釈について映画でしか起こりえない大きな仕掛けが発動します。
この仕掛けは何のためにあるのかは、なぜこの作品が作られなければならなかったのかという問いでもあります。「こうだったかもしれない」もう一つの可能性を提示することは、「こうだったらよかったのに」という麻酔のような妄想や理想を語る欺瞞ではなく、世界の選択が観客=我々に委ねられていることを示していて、大きな問いかけになっているとともに、取り戻せない奇跡的な輝きがあることを伝えてくれているようです。
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