サラリーマン岡崎

運命は踊るのサラリーマン岡崎のレビュー・感想・評価

運命は踊る(2017年製作の映画)
4.8
「人はいつまでも覚えてるものがある。屋上の潮の香りとか」「息子の誕生日とか?」
映画の終盤で夫婦が語る台詞。

この映画は、台詞とかではなく、その映画の1シーン1シーン感覚の様に思い出させてくれるような映画になるだろう。
それはこの映画が話を「理解させる」映画ではなく、「感じさせる」映画になってるから。

映画は3部構成になっており、それぞれ「悲しみ」「空虚さ」「喜び」を体感できる。
例えば第1部は主人公家族に戦場にいる息子の訃報が届く話であるが、
基本的には主人公の家だけで話が繰り広げられる。
時間は昼間で、天気は晴れ、外の景色も綺麗だ。
そして、建築家である主人公が建てた家なので、内装もかなりスタイリッシュ。
だが、どこか空虚さがある。
外は異様に青い、だけど人の気配はない。
なんだか異空間にいるような気分だ(イジリー・スコリモフスキの『イレブン・ミニッツ』でも同じようなことを感じたな)。
そして、室内は外に比べるとあまり色味がないし、どことなく暗い。
それをグルッと回転させたり、主人公の顔がいきなり追い被さったりする不思議なショットで表現するので、より異様である。
その異様さが主人公の弱いんだけれども、強がっている「悲しさ」を表しており、
観客もそれを体感する仕掛けになっている。

それはシーンの作り方だけではなく、
構成の仕方も起因している。
基本的に全編伏線が散りばめられており、
観客はその情報を知らないまま、模索して生きながら話は進む。
その想像した光景に観客たちは喜怒哀楽し、そして、答えが提示されたときに、より重い衝撃を受けることになる。

そうやって、観客にこの映画を観たという「感覚」を与えてくれるこの映画は、
パレスチナの終わらない戦争への連鎖を語っている。
僕はパレスチナについては地検が全くない。
パレスチナの人たちがこの映画を観ると、
普段感じている、昔感じたことのある、
思い出せる「感覚」があるのだろう。
それが映像も音もある映画だからこそできることであるよな。

ただただ、すごいと思う。