Yu

運命は踊るのYuのレビュー・感想・評価

運命は踊る(2017年製作の映画)
4.4

“人は、運命を避けようとしてとった道で、しばしば運命にであう”


ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖地とされ、いつまで経っても戦争の絶えることのないイスラエルの苦しみを、ラ・フォンテーヌの有名な言葉を引用して表現した今作は、観るものの心を激しく掻き回す 素晴らしい作品だった

考え抜かれた構図に対して 緻密に計算されたカメラワークは、役者たちが物語る目の表情はもちろん、無駄の一切ない美術道具でさえも 常に何かを訴えかけてくる
それも全ては、あらゆるものを繊細に扱い美しく描こうとした賜物だろう

原題#FOXTROT や邦題が意図する、“同じ場所に戻ってくる” 話は、まるで罪を犯したものが決して逃れられない無限ループに閉じ込められたかのように、劇中の様々なところで表現されていた

それは 果たして無神論者である父親が過去に軽んじた聖書(ベッドタイムストーリー)の呪いなのか、イスラエルという国自体に取り憑いたものなのか、それとも人間のもつ宿命なのか

“あの時のあれが無ければ…”が、いくつか散見されるこの物語には救いの道は見当たらず、ただただ時間を掛けて受け入れるのみ

“死” が日常化している軍の役人は、まるで機械の歯車のように無感情に “薬” で人の心をコントロールしようとし、そしてあの夫婦も “麻薬” で心を落ち着かせていた

もはや、傾き、転げ落ちそうな人生だと分かっていても、人はそれでもぐるぐると踊り続けるしかないのだろう
たとえ中毒のように薬によって心を麻痺させてでも


ただ、“人生” は言うほど過酷なことばかりでもない

“人生” は1人でなきゃいけないものでなく、誰かと一緒に歩めるもの

社交ダンスのFOXTROTは
大抵2人1組で踊るものなのだから
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