鰯

運命は踊るの鰯のレビュー・感想・評価

運命は踊る(2017年製作の映画)
4.1
ラクダと、必ず元の場所へと戻るステップ

シリアスなポスターと突然マンボの流れる不思議な予告につられて鑑賞。
ミステリー映画としても観られるし、戦争映画としても観られる。家族映画でもあって、コメディとしても観られる。ジャンルを聞かれてもうまく答えられません。観た後にいえるのは、「この邦題はよかったなあ」ということ。

オープニングの車の上から撮った風景。ここはどこで誰が載っているのだろう。夫婦の暮らす家に突然訪れた軍の役人に告げられる従軍している息子の死。父ミハエルは受け入れられないながらも葬儀の手配などを始める。そこで、再度現れた軍の役人に告げられるのは「息子が生きていた」という事実。何が起こっているのか。息子は無事なのか。家族は1つになることができるのか。父はなぜこんなにも強情な態度をとるのか。3幕構成の3幕めできちんと明かされる。

どんぱちはなくても、常に緊張感のある世界。息子のヨナタンは、だだっ広い荒野の検問所で仲間と通行者を検査する日々を送っていた。友人が銃を抱えて踊るフォックストロットのステップ。彼らの生活環境が徐々に悪化する中で起こるある事件と上官の対応には、銃撃戦よりも強い恐怖を抱きました。そして何だかあっけない幕切れ

息子に関する報告に動転する父と混乱しながらも気丈であろうとする母ダフナ。そして父の話を思い出す息子。3人が家族のことを思いながら、見事にそれぞれの想いはかみ合わない。そこから徐々に父の本来の姿が明かされると色々合点がいき始める。「ああ、この父を中心にみんなグルグルと同じところを回っていたのかな」と思うようになる。

真面目なドラマ部分がもちろん面白いのだけれど、コメディ的にも観られてすごく楽しい。動転する父に執拗に水を勧める軍の役人たち。そのあと定期的にアプリで「水を飲む時間です」と表示されるのが何とも笑えるようなイラっとするような。また、兵士たちにヨナタンが語る父の逸話は、イスラエルの微妙な宗教事情の中で、かなり笑える内容。逸話というよりもはや武勇伝に近いとんでもないお話でした

映画全般に、突然報告を受ける父と母や検問を受ける市井の人々など、「受け」側の表情がとっても印象に残りました。話している人よりも、話されている人にフォーカスが当たっていたように思います。
いろんな要素が変なバランスで混じり合っていて、うまく消化できずに鑑賞後にも自分の中に残っている感じのする面白い映画でした。あと、ベストアクトはミハエルの飼っているワンちゃんです。
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