Inagaquilala

グッドランドのInagaquilalaのレビュー・感想・評価

グッドランド(2017年製作の映画)
3.8
東京国際映画祭で観賞。コンペティション部門でグランプリに輝いたトルコ映画「グレイン」も観てはいるが、自分的にはこちらの作品のほうが観応えがあった。ルクセンブルクの新鋭ゴビンダ・バン・メーレが監督と脚本を手がけており、初めて目にするルクセンブルク映画だ。舞台は収穫期を迎えたルクセンブルク南部の農村。ルクセンブルクの南部には、タイトルにもなっている「グッドランド」という肥沃な土地がひろがっているそうで、映像にもあの小さな国には似合わぬ広大な農地と景色が映り込む。

物語はその農村にひとりの男が辿り着くところから始まる。髭は伸びていて、服装も見るからに流れ者という男、仕事を求めて村人に声をかけるが、最初は芳しい応えは得られない。村のリーダーとも言える男から仕事と住むところを世話してもらった男は、少しずつ村にも馴染んでいく。男には実はある秘密があったのだが、それを抱えたまま、夫が失踪して自ら働く女性と知り合い、ともに暮らすようになるのだが。

男手のない家に入り込んで、働き手として村から受け入れられるシチュエーションは安部公房の「砂の女」を思わせる。共同体のなから徐々に取り込まれていく流れ者の男。しかし、「砂の女」と異なるのは、男がある秘密を胸の中に抱えているところだ。そして、美しい田園地帯が広がってはいるが、村にも男が抱えている以上の秘密が隠されており、それらが恐ろしい結末へ導いていく。

監督のゴビンダ・バン・メーレは、たとえば制服の映像や男の髭、そして服装など、各所に象徴的な記号をちりばめながら、カタストロフへと持っていく。その手さばきはなかなか素晴らしい。驚きのワンカット作品「ヴィクトリア」で注目を集めたドイツの若手俳優フレデリック・ラウが主演の男を演じているが、物語が進むにつれて変貌していく流れ者の男を情感豊かに演じている。結末は自分的にはかなり恐ろしいスリラーで、自分が観たコンペティション作品のなかでは、この作品が最後まで力強いサスペンスを持続していたように思える。
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