三樹夫

迫り来る嵐の三樹夫のネタバレレビュー・内容・結末

迫り来る嵐(2017年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

工場町で連続強姦殺人事件発生。工場の保安課の主人公は野次馬根性丸出しで事件に首を突っ込んでいき、陰鬱な世界へ突入していく。作中、天候は曇りか雨でどよーんとしており、厭世観を煽る。この映画は『セブン』と『殺人の追憶』を想起させる。俺はこの映画はどっちらかといえば『セブン』に近いと思う。警部のおっさんは『セブン』のモーガン・フリーマンのような役で、完全に厭世観にとらわれていて、この世にうんざりしている。夫が妻を殺す殺人事件で、観客も警部のおっさん同様厭世観にとらわれる。残された幼子はどうするんだと、さらに追い打ちをかけるように観客を陰鬱な気持ちにさせるこの映画の姿勢はさすがだ。この映画の狙いとしては、観客を陰鬱な気持ちにさせ厭世感へと誘い眉間にしわ寄せて、天地茂みたいな顔で劇場をあとにさせるものだ。

犯人を追いかけて部下が落ちたところが主人公にとっての分かれ目として表現されている。あそこで部下の方へ大丈夫かと行っていれば、地獄にどっぷりつかることもなかっただろう。はっきり言って、主人公のせいで部下は死に、ここから残りの1時間は完全に陰鬱さがすべてを覆う。主人公は死んだ目になり、軽いジャブだといわんばかりに大量リストラで主人公もクビ。主人公は犯人を捕まえれば何か救われるのではないのかと、犯人逮捕に救いを求めだし、もはや誰が犯人とかはどうでもよくなっているように思える。とにかく“犯人”を捕まえればいいと引き戻せない境界へと行ってしまった。イェンズを囮にして、陰鬱なシンデレラみたいな捜査方法で犯人の目星をつける。そして目星をつけた男をボコボコ。このボコボコにするシーンだけ今まで曇りか雨だった空に少しだけ光がさしており、完全にあっち側に行ってしまった主人公にとっての唯一心が少し軽くなる瞬間となっている。しかし、主人公がボコボコにした男は犯人ではなく、犯人は主人公が靴をもぎ取ったその日にトラックにひかれて死んでいたという救いの無さ。イェンズは自殺するし、観客も主人公同様、映画が始まってだんだん目が死んでいく。
細かいところでも嫌な気持ちにさせる映画で、主人公がボコボコにした男は死なず一生寝たきりという、この映画の陰鬱さを増加させるものだ。警部のおっさんも倒れて廃人だし、死なずに苦しみが長く続くという陰鬱さを感じさせ観客をどんよりさせる。
主人公にとってのハイライトは97年度の表彰スピーチなわけだが、元工員のジジイからは知らないといわれる。あのシーンは他人からしたら覚えてないほどどうでもいいことで、主人公が唯一持っていた光さえも粉々に壊れたというシーンだと思う。主人公の妄想だったという可能性もあるが。そうなると犯人もトラックにひかれた男が本当に犯人だったのかは、100%そうであるとは言い切れない。観客に委ねるという映画であると思う。
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