otomisan

負け犬の美学のotomisanのレビュー・感想・評価

負け犬の美学(2017年製作の映画)
4.0
 大人の世界をのぞき込むと、そこがちっとも好意的でない事に気づいたりする。大人が自分たちの知らないところでなにをしてるか気になるとこれはしょうがない。悪意に満ちた言葉さえ飛び交うリングサイドで父ちゃんが打たれまくるのを見れば、自分が観覧を望んだ事が後ろめたくさえ思える。それともあんなことを仕事にする父ちゃんの果たしたいことが自分とつながっている事に当惑するだろうか。しかし、知っている者が気が付けば練習相手というのでさえ、えらい事を引き受けていると分かる。ものごとに内幕があればその裏側向こう側もあるとは一度に捌くには荷が重いか。
 45歳、3年も勝ってない勝率3割のロートルに欧州王座戦に臨むタリクの練習相手が務まるのも現王者と対戦し、タリク同様負けたから。負けて王者の癖を読み、負け犬の心理を弁えてるからだが、それをうったえてパートナーに留まれるのは、ただ幸運だっただけだろうか、売り込みの熱意と弁の重みのせいかも知れない。それができる父ちゃんを娘はまだあずかり知らん。
 だから、父ちゃんの引退試合も観戦に行けばよかった。王座奪還に臨む挑戦者と向き合って叩かれないなら父ちゃんが挑戦者になっていただろう。しかし、その前座試合の6R戦、挑戦者に叩かれた男が挑戦者の攻めを総身に叩き込んで臨めばどう戦うか。意外かどうか、挑戦者に勧めたのと正反対、相手を真ん中に置いて外から踊って打ち込む最終ラウンド、こっそりのぞいた挑戦者が、相手をよく見て戦ってるじゃねえかと納得したか、あれはただの苦笑いだったかは分からない。しかし、父ちゃんは自分の勝利より挑戦者タリクの勝利の方がきっと嬉しいだろう。善戦したのは最終ラウンドだけ?の3割ボクサーでも欧州王者と対等に向き合ってパートナーが務った。一家を養う以上の事をボクシングで果たせたなら、ただ負けを重ねただけではないと胸を張れるだろう。リングを降りた父ちゃんの陰りのなさにそんなことを想像してしまう。
otomisan

otomisan