Bigs

負け犬の美学のBigsのネタバレレビュー・内容・結末

負け犬の美学(2017年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

素晴らしい。

ハリウッド映画的な基準からいくと薄味なのかもしれないけど、作劇のドラマティックな部分を排してるからこそ、ラストマッチで彼が見る景色や彼を見つめる奥さんの視線にグッとくる。才能ない・結果も出てない、でも好きだから止めないという人への甘やかしじゃない誠実な応援歌だと思った。

タイトな90分でこれだけ彼の視点に入り込めるのは、それだけ演出・脚本が上手いのだろうと思う。最初に説明的でなく彼の置かれた状況を示すのが上手い。血尿や枕にくっつく傷口でサラッとでも印象深く体のダメージを示し、娘のピアノ教室で金銭的に困窮してる状況も示す。あとは何度も使われる長回しで歩くショット。サクッといくところはテンポよく、ここぞというところは長回しで彼の視点を共有させる。
試合に勝てない云々の前に試合を組むことさえできない。それでもなんとかリングに立ちたくて試合より過酷なスパーリング相手をかって出て、実力不足でそれすらも追い出されそうになる。彼が勝てない理由は実力不足だというのがスパーリングシーンで観てる側にも明らかで、そのためチャンプに認められるとか何か才能が開花するとか、そんな安易な救いはない。でもなんとかしてリングに立ち続け、そうして掴み取ったラストマッチの機会。ここでも勇ましくゴングがなったり、劇的な試合展開になったり、観客が盛り上がったりしない。でも、トレーナーから「これが最後の試合なんだぞ」と言われた後に彼が見るリング上の光景や、彼を唯一近くで見続けてきた人の視線が、それだけが何かに打ち込むことを肯定しているように思え、真にドラマティックで非常に感動的でした。
Bigs

Bigs