MasaichiYaguchi

負け犬の美学のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

負け犬の美学(2017年製作の映画)
3.9
ボクシング映画の金字塔と言えば「ロッキー」が思い浮かぶが、今までこのジャンルで取り上げられることが少ない「スパーリング・パートナー」を題材に、「憎しみ」で高い評価を得た監督で、「アメリ」のヒロイン相手役だったマチュー・カソヴィッツ主演の本作は、ある意味「ロッキー」の合わせ鏡的な映画だと思う。
それは「人生の勝ち負けは自分次第だ」ではないが、両作品共、主人公は愛する者のために倒れても立ち上がって戦い続ける。
この映画の原題である“Sparring”はボクサーが試合への対人的な技術を磨く模擬戦として重要な役割を果たす。
主人公のスティーブ・ランドリーは勝ち数よりも圧倒的に負けが多い40代のプロボクサー。
このスティーブのように「負け犬」ボクサーで“副業”で糊口を凌いでいるような実在のボクサーたちが本作で紹介されるが、主人公を含めて彼らが止めないのはボクシングへの愛と、そして何よりも掛け替えのない大切な人への愛のため。
そんなスティーブが家族、特に愛娘マリオンのために危険を承知で過酷な欧州チャンピオン・タレク・エンバレクのスパーリング・パートナーを引き受ける。
この欧州チャンピオン・タレクをWBA世界スーパーライト級王者ソレイマヌ・ムバイエが演じているので、スパーリング・シーンから伝わってくる迫力は一味も二味も違う。
だから主演のマチュー・カソビッツはボクシングを基礎から習って本作の撮影に臨んだとのこと。
馬鹿にされたり、罵声を浴びて娘に悲しい思いをさせてしまったロートル・ボクサーであるスティーブが、彼に感銘を受けたチャンピオンによって用意された引退試合で見せたボクサーとしての矜持や、傷付いた娘へ贈るメッセージが熱くスクリーンから伝わってくる。
そしてラストでのショパンのノクターンの調べとマリオンの笑顔が温もりと共に心に残ります。