Inagaquilala

ポーカーの果てにのInagaquilalaのレビュー・感想・評価

ポーカーの果てに(2017年製作の映画)
4.1
東京国際映画祭「アジアの未来」の1本。トルコの作品だ。週末の夜、主人公は友人たちを集めてポーカーで遊ぼうとしているが、外では反政府のデモが激しさを増している。まずこのポーカーと反政府デモの組み合わせが秀逸だ。主人公の部屋に最初にやってきた友人は、今日は12時で帰ると言い出す。次にやってきた友人はSNSマニアで、それを気にしながらデモに行かなくていいのかと、ゲームなどそっちのけで窓からデモ隊をのぞき込む。もうひとりの友人は時間に遅れている。ポーカーがなかなか始められないので、苛立つ主人公。そこに、警官隊から逃れてきたふたりの若い女性が部屋に飛び込んでくる。かたやギャンブルかたや政治、このふたつを対比させたかたちで、主人公の部屋でディスカッションドラマが始まる。

今回の東京国際映画祭の作品のなかではいちばん楽しく観たひとつだ。基本はワンシチュエーションのコメディだが、カメラワークが素晴らしく、舞台がほとんど部屋のなかで、それほど移動はしないのに、最後まで面白く観させてくれる。登場人物たちのセリフのやりとりもかなり丁々発止で、脚本の素晴らしさも光っている。春に観たイタリア映画「おとなの事情」に、さらに政治的な会話を加えた感じの作品だ。そのまま舞台劇にしてもよいような登場人物たちの密度の濃いセリフのやりとりだ。

よくギャンブルはその人間の性格が出ると言われているが、この作品でもうまくポーカーというゲームを劇中で生かしながら、登場人物たちの性格づけをするのに役立てている。監督と脚本を担当したミヒャエル・オンデルはこれが初めての作品だということだが、なかなかの技巧派でしかもエンタテインメントの勘所もきちんと心得ている。早くも次回作が楽しみな監督のひとりになった。いちおう、トルコなので、「アジアの未来」というコンペティション部門に出品されていたが、どう見てもヨーロッパ、それもイタリア映画のようなテイスト。とにかくすっかり気に入りました。DVDや配信になったら、もう一度、個々のセリフをじっくり吟味しながら観たい作品だ。
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