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飢えたライオンのminorufukuのネタバレレビュー・内容・結末

飢えたライオン(2017年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

ヒロインの担任教師が児童ポルノ所持の容疑で逮捕される。程なくして、教師と未成年女子との淫行現場を映し出した動画がインターネットで流出するのだが、その教師の相手の正体がヒロインなのでは?という噂がささやかれ始める。根も葉もない事なのでいずれ鎮火するだろうとヒロインは放置していたのだが、やがてその噂は、さも事実であるかのように広まっていって…という話。

同監督作品では「終わらない青」を観ていて、そのあまりに救い様の無いメッセージ性の強い
作風に戦慄を覚えた記憶があり、その監督の最新作ということで鑑賞。

真偽の分からない事柄がネットやSNSの匿名性ゆえに、無責任に際限なく広がっていく恐ろしさを俯瞰した視点で描いている作品。
同じようなテーマを扱った邦画は大抵、作り手があまりネットの本質を理解しておらず、また、ネット描写が数十年前の2ちゃんねるのイメージで止まっているのですごく萎えてしまう傾向にあった。
しかし、本作は噂が拡散していく様子や恐怖を、ネット描写自体ではなく、ヒロインに関わる登場人物たちの変化で表現している点が上手くて、ひと味違うと感じた。
また、孤立するヒロインを助けようとする存在や家族愛や友情などの道徳的な要素は一切盛り込まず、淡々と人間の暗部を見せつけてくるので、後味は悪いが非常に説得力があった。俗に言うリア充でパーティーピーポーな高校生たちの行動原理や話し言葉を現実に近い形で忠実に表現しているところも良かった。ヒロインもあまり賢くなくそこまで良い子でもないので、あまり感情移入もせず客観的に物語を追うことができた。
ヒロインの自殺後も、興味本位に刺激を求めて見ず知らずの女子高生のゴシップを垂れ流す若者たちや、デリカシーのかけらもない取材を繰り返すマスコミの醜悪さが滑稽に映った。そして最後にいわゆる「第四の壁」が破られて、ヒロインが我々観客にも「お前らも同類だろう」と言ってるかのような視線を向けてくるシーンが印象に残った。完全無音のエンドロールもこの作品には合っていた。
もの凄いリアリティがあるわけではないが、テーマを伝えるには充分な現実味を持っているように思えた。まあ、実際はこの内容の事件であそこまで報道が長期間加熱することはないと思うし、ヒロインはSNSでそこそこ人気という設定なのだから、ネット民でも法律に強い識者や、常識ある面々がヒロインを助けてくれたのではないだろうか?
わからんけど。

この監督独特の、場面転換で必ず暗転する演出は本作でも使われているが、場面転換だけでなく感情の変化などでも暗転していてさらに進化していた。

学校の校長役が竹中直人なのだが、個性的なのでほぼ声だけの出演でも本人と分かってしまった。
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