マクガフィン

愛と法のマクガフィンのレビュー・感想・評価

愛と法(2017年製作の映画)
2.9
事前情報を殆ど入れなく、ポスターの感じからモキュメンタリー的かと思いきやドキュメンタリーで驚く。

序盤の憲法改正を戦争法反対に結び付けるデモ映像は、〈教師の国歌斉唱の強要〉〈わいせつ物/表現の自由〉〈無戸籍問題〉の根底の問題にあるの類似性の結び付けで、監督の思想が垣間見れる。

如何にも、テーマを提示されたような会話が多いが、同性婚をした弁護士夫夫の会話の兼ね合いが良い。2人のやさしさが、ドキュメンタリーの硬さが薄れて良いが、全体的に映像の文体の硬さや編集の荒さはドキュメンタリーとしても如何なものか。

複雑で手間がかかるマイノリティの問題を取り扱う弁護士夫夫に感服する。憲法の中の単語の概念を広げてぼやけさせたり、国籍を問われて憤慨したり、納得のいかない判決による裁判長を批判し、自分たちの納得いく結果には、裁判長を賞賛するなど、綺麗事だけでない人間味が溢れる描写に驚く。

〈教師の国歌斉唱の強要〉は、表面をなぞったぐらいに。取り上げたが魅力が無かったかからか、尺は短い。全カットでもよかったのでは。

〈無戸籍問題〉は、無戸籍者の言葉は響くが、無戸籍に陥る背景や無戸籍者が存在する理由の掘り起こしが甘すぎる。男女関係だけでなく、貧困・虐待・病気・暴力などの闇の部分を描かないと、無戸籍問題に至る説得力がまるでない。

前半は問題の風呂敷を広げるだけなことが多いので退屈だが、後半の〈わいせつ物/表現の自由〉に興味深くなる。
おちゃらけた女性漫画家・ろくでなし子さんに作中の登場人物の中で一番、日本人の根底にある問題より、人間としての尊厳を訴えた、ミスリード的な展開に驚く。
作中の人物たちは、「憲法は~」「権利が~」「平等は~」と概念の拡大解釈や揺さぶりによる主張は、もちろん大切で重要なことだが、女性の尊厳の主張にに比べると、重みが違い過ぎる。

裁判の打ち合わせ中に、女性の最も主張したい尊厳を、裁判長の心証が悪くなくなるからとあっさりと弁護士が却下した切なさが何とも言えない。マイノリティを扱う弁護士で裁判で共闘する同士なのに、分かち合えていないとは。監督も同様に。理解はできなくても、尊厳を尊重することは必要なのでは。女性・弁護士・監督の各々の微妙なズレが偶発的に描かれていて、世の中の構図を見ているようで面白い。

恐らく裁判は、購入したアイテムから、ダブルスタンダードやアートに置き換えて、弁護士が訴えたのだろう。裁判長の心証を第一に考える戦術は、女性の尊厳を置き去りにすることに。勝つことによる問題の解決、戦術といえばそれまでだが。そして、女性の尊厳を一番理解していたのが裁判長なのも納得で、様々な視点からの見解を熟考した結果だからだろう。

視点によって様々なことを、結果在りきな監督の視点に集約したような、邦画のドキュメンタリーの枠組みからは出れなかったし、それによる説得力も感じなかったのが残念。作品同様に、邦画ドキュメンタリーとの相性も良くない結果に。

唯一、最後までブレなかった、ろくでなし子さんのドキュメンタリーが見たい。