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地球はお祭り騒ぎのlpのレビュー・感想・評価

地球はお祭り騒ぎ(2017年製作の映画)
4.1
第30回東京国際映画祭にて鑑賞。日本映画スプラッシュ部門の作品。

9月に新宿武蔵野館で『七日』と『プールサイドマン』が連続公開されたことが記憶に新しい、渡辺紘文監督の最新作。今回もモノクロ。そして、今回も日常繰り返し描写あり。(他の監督がやったら「退屈」としか映らない、日常を繰り返す描写でも渡辺監督がやれば「待ってました!」となるのだから、我ながら調子の良い人間だと思う。)

『プールサイドマン』の感想で、「多くの人は今作の主人公のように一線を越えないと思う。それは今作では描かれない友人や家族の存在だったり、日常的な変化や些細な楽しみ、夢だったり希望だったり、そういったプラスのエネルギーが、多かれ少なかれ存在するからに他ならないと思う。」って書いたのだけど、今作はまさにその「日常の中にある楽しみ」を拠り所に退屈な日々を生きる男の話。作品の位置付けとしては、QAでも触れられていた通り、まさに『プールサイドマン』と表裏の関係。そして、『プールサイドマン』も今作も、『七日』の延長線上に存在する作品だと感じた。
直接的な繋がりは無いけれど、上記の通り作品間にテーマの繋がりは多分に存在していて、『七日』→『プールサイドマン』の次に今作が撮られたことには大いに納得。
『七日』→『プールサイドマン』→そして『地球はお祭り騒ぎ』と並ぶことで、各作品のテーマ的な繋がりであったり、裏表の関係を通じて内容をより理解出来たところもあり、渡辺紘文監督はここ3作品で、新しい作品を撮る度に過去作品の深化にも成功していると思う。撮る作品が全編モノクロ・主人公は台詞ゼロなどの独自性とも相まって、本当に稀有な監督だと思う。

さて、かなり枕が長くなったけど、ここからは今作単体での感想。
まず映画のド頭にカラーで絵本が映ってビックリ。今回もモノクロの映画という認識でいたので、間違って他の映画が上映されてるんじゃないかと疑心暗鬼になった。結局この絵本も本編の一部なのだけれども、これがまた驚きの存在だった。絵本に出てくる「月」は本編の「お祭り」(平たく言えば趣味)のメタファー・・・といった具合に、本編との繋がりを感じられるものだったけど、QAで聞いてみたら絵本ありきで今作を創った訳ではないということで驚いた。ただ、絵本自体はかなり古いもの(主演の今村さんのお父さんが描いたもの)らしく、監督が過去に読んだ時の記憶が頭の中に残っていて、無意識のうちに作品に反映された可能性はあるのかなと思った。

映画の内容は無口な工場勤務の男(ビートルズ好き)が、よく喋る同僚の男と共にポール・マッカートニーの来日コンサートへ行く・・・という話。渡辺監督の過去作『七日』→『プールサイドマン』に比べると、荒々しさは影を潜めていて「ずいぶんと丸く収めたなぁ」と思ってしまうけど、冷静に考えると「日常繰り返し描写」や「主人公は無口」という要素は残されており、今作もかなり変わった映画に違いない。(むしろ、今作でハードルが低いのだから、『七日』と『プールサイドマン』はどれだけハードだったのかと。)

主人公の特徴は過去2作と異なり、部屋のレイアウトや日用品、ペットの存在などから生活の匂いが漂うこと。ただし、食事の内容に変化が無いことや、リビングの壁の「ある物」の存在が、主人公の歪みを暗に物語る。後にその元凶はダイレクトに提示され、観客は主人公が歪みを抱えることを確信する。この辺りの語り口は、映像表現特有の方法がスマートに使われていて、渡辺監督が正統派の演出も手堅く熟せる力量を備えることが伝わってきた。

車内での「笑わない今村樂VS全力で笑わせにくる渡辺紘文」は今作でも健在。相変わらず面白い独演会だった。特に前作に引き続いての「ワンピース」ネタは映画館内の受けが良く、渡辺監督を追いかけるファンの多さを感じた。

QAでも少し触れられていたけど、監督が今回エンターテイメントとしての面白さを意識していることは、本編からもヒシヒシと感じた。時系列を崩して車中のシーンを挿入しているところに、観客を飽きさせまいとする姿勢を感じた。そしてその計算は見事に嵌まったと思う。

個人的には「東京国際映画祭」で今作を観られたことは凄く良かった。主人公にとっての「ビートルズ」は自分にとっての「映画」であり、数年に一度の「来日ライブ」は、まさに年に一度の「東京国際映画祭」に近い位置付け。映画を通じて、映画祭への参加を肯定されてるようだった。
独自のスタイルを確立しながら、エンターテイメントとしての面白さも備える今作は、日本映画スプラッシュ部門の作品賞候補かなー・・・と思ったけど、残念ながら受賞はなし!でも、自分は好きな映画です。渡辺紘文監督の今後に、大いに期待しています。
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