ラウぺ

もったいないキッチンのラウぺのレビュー・感想・評価

もったいないキッチン(2020年製作の映画)
3.7
オーストリア出身の映画監督でフードアクティビスト(“食材救出人”)ダーヴィド・グロスが、「もったいない」精神の息づく日本を、救出した食材をキッチンカーで料理しながら巡るドキュメンタリー。

世界でもトップクラスと言われる「食品ロス」の問題は、社会の効率化と便利さの追求により、無駄の内在を承知したうえで発達したシステムの上に成り立っており、これを減らすことは一見非常に難しい問題のように思えます。
社会の隅々まで行き渡ったコンビニなどから出される廃棄食品こそが、食品ロスの最も大きなウェイトを占め、この問題のメインストリームといえます。

映画はまず、コンビニに突撃してこの問題を直撃。
納期や品数の厳守、食材の準備の関係から実際に消費される数より多めの生産は避けられないこと、一見短すぎると思える消費期限のために、売れ残りが処分される様子を紹介。
実店舗の店長へのインタビューの他に本社役員の意見を聞いていきますが、消費期限の表示は僅かでも食中毒などの危険が起きる可能性に配慮した期限を設定したもので、企業としてこれを変えることは難しい、との立場。
この問題を解決するには、流通や発注の仕組みを根本から見直すことが必要と思われますが、そのきっかけとして大切なのが、人の心の問題ではないか?というところに行き着きます。

ダーヴィドは日本の食材を大切にする「もったいない」心の原点を求めて、精進料理をつくるお寺や、釜ヶ崎のカフェでの救済食材を使った料理、福島のシェフによるネギを丸ごと使い切った料理、野草を集めてお茶やてんぷらにして食べる82歳の料理研究家、熱水の噴出する地熱での蒸し料理、団地の畑で生ごみを原料にしたコンポストでの堆肥を使った野菜作り、多摩の山中での昆虫食の体験、そして枕崎でのモーツァルトとかつお節の意外な関係などなど・・・単なる食品ロスの問題から食べ物を戴く精神、地産地消の効能、プラスチックごみの問題からサステナブルな循環型社会への模索、といった多様な問題に切り込んでいきます。
そこには食品ロスの問題を通じてさまざまな周辺の問題までを考えるとき、「もったいない」精神こそがその問題を解決するための原動力となりうるのではないか、「もったいない」と思うことで、このままではいけない、と思うことの端緒となるのだ、と気づかせてくれるのでした。

簡単に解決できることではない壮大なテーマではありますが、この映画を観て、私たちにまずできることからはじめないと、と思うのでした。
ラウぺ

ラウぺ