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殴られる彼奴(あいつ)のhkのレビュー・感想・評価

殴られる彼奴(あいつ)(1924年製作の映画)
4.4
字幕なしのオリジナルを見た。サイレントなのだが、嘲笑の場面のみ、群衆の笑い声が響き渡った。ピエロの登場する映画の原点だと思った。

レビューを書こうとPCを閉じようと思った時、日本語訳+活弁字幕つき版があることを知った。もう一度見た。笑い声の替わりに、せつないピアノ曲がバックに流れていた。

この映画の素晴らしさを危うく見落とすところだった。

日本語訳が素晴らしかったこともあり、噛み締めながら2回目を見た。

"最後に笑う者が勝者である"。
主人公は本当に勝者だったのか。

元妻と支援者だったはずの男爵に裏切られた主人公が、人生を笑うため、軽蔑の念を込め、ピエロになった。

それで人生を終えるつもりが、人というのはどんなに傷ついても、不思議と希望を持ち、人を愛する勇気を持っている。自分でも信じられないような叶わぬ恋をする。

最後はハッピーエンドなのかどうかを観客に問いかける。

幸せかどうかは、本人の考え方次第。主人公は2つの幸せ(悲しみの終わり)を見出だし、映画は終わった。

私は、これも幸せのひとつの在り方だと思う。

感情がむき出しになるシーンや胸を締めつけるシーンなどがいくつかあるが、どれもその描き方が素晴らしかった。

コンスエロが彼奴さんにハートを縫いつけるシーン。彼奴さんは幸せを噛み締めているが、見ているこちらは逆にその辛さに胸が締めつけられる。

公演中に復讐相手を観客席に見つけた彼奴。いつもは殴られて倒れることで笑いを取る。この時は復讐相手に気を取られ、殴られても殴られても倒れない。彼奴が真剣になればなるほど、観客は大爆笑となり、公演は皮肉にも大成功となった。

多くの方が絶賛するピクニックの求愛シーン。お互いお腹が空いてないと空腹よりも別のことに頭が一杯なのだが、コンスエロが恥ずかしがって逃げる、気持ちを言わない。ベザーノが追いかけてコンスエロを捕まえて組み敷いて吐かせた言葉"私もお腹は空いてないわ"を"私も愛しているわ"との訳。そうか、そういう意味か。

どんなことでもいい。最後は笑って終える人生を送りたい。
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