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SUNNY 強い気持ち・強い愛のTOSHIのレビュー・感想・評価

SUNNY 強い気持ち・強い愛(2018年製作の映画)
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昨年、安室奈美恵が引退を発表した時、40歳という年齢に驚いた。そうなのだ、アムラー、コギャルと呼ばれた世代は、もうアラフォーなのだ。何も考えていないように見えた一方で、ルーズソックス・チェキ・プリクラ等、何でも自分達仕様にカスタマイズして楽しむ、バイタリティに溢れた女性達は一体どんな中年の大人になっているのか。大根仁監督による、監督映画「サニー/永遠の仲間たち」のリメイクだが、安室奈美恵の引退直前に、タイムリーなコンセプトで、大胆に色彩を変えている。
稼ぐビジネスマンの夫との間に、反抗期の娘がいる専業主婦の奈美(篠原涼子)は、母親の見舞いに行った病院に入院していた、芹香(板谷由夏)と再会するが、彼女は余命わずかの末期ガンだった。芹香の「みんなに会いたい」という願いを叶えるべく、奈美は動き出す。
手掛かりを求め、奈美が母校を訪ねた時、久保田利信の「LA・LA・LA LOVESONG」と共に、女子高生時代が甦り、篠原涼子が広瀬すずに入れ替わる。「ラ・ラ・ランド」のオープニングを意識したと思われる(それで、ラが一つ多い同曲なのだろう)、女子高生達によるダンスシーンが圧巻だ。当時の奈美は阪神大震災で被災し、淡路島から東京に引っ越してきたばかりで、田舎者丸出しだったが、同級生達のファッションの洗礼を受け、皆に合わせようと、おばあちゃんの古臭いカーディガンを着て、半端なルーズソックスを履くのが爆笑だ。からかいの対象になっていた奈美をかばったのが、芹香だった。奈美は、ウリ(売春)とドラッグはやらない事をポリシーにしている彼女のグループのマスコット的存在となるものの、雑誌モデルとして活躍している奈々(池田エライザ)だけは、ダサいと冷たく当たる。
更に奈美は、芹香と友人関係だったが、ドラッグに溺れたために、険悪な関係になっていたミレイ(小野花梨)に絡まれる。
現在の奈美は、ブラック企業の不動産会社で虐げられていた梅(渡辺直美)と出会うが、他の友人達を探すため、探偵の中川(リリー・フランキー)に調査を依頼し、外科医と結婚し、豊胸手術で巨乳になっていた裕子(小池栄子)を見つける。芹香の状況を聞いても、昔には戻りたくないという裕子。そして、心(ともさかりえ)や奈々、奈美が恋したクラブDJの藤井(三浦春馬)は…。
1990年代の女子高生達の輝きを描き出しながら、彼女達がバラバラとなるきっかけとなる、事件と、現在の彼女達の苦境を交錯させる構成が巧妙だ。軽薄・能天気の極みだった女子高生達がアラフォーになり、人生に苦しんでいる姿には、当時のコギャルを白い目で見ていた多くの人達も、感情移入させられてしまうだろう。ある者はバイタリティを活かして事業で成功したり、玉の輿に乗ったりしているが、勉学を怠っていただけに、社会でもがいているのがリアルだ。
この映画には、90年代当時、私が嫌悪していた物が詰まっている。コギャルファッション、援助交際、ブルセラ、そして本作の音楽を担当する小室哲哉のTKサウンド。しかし本作を観るとそれらを許し、受け入れてしまう。そしてコメディタッチにも関わらず、ずっと涙腺を刺激され続けるのだ。これが映画のマジックだろう。
大根監督は、得意のトリッキーな演出、キレキレのカット割りは控えめにし、逆光を多用した優しいトーンの映像で、バブル崩壊で大人が活力を失い、女子高生を中心に世の中が回っていた90年代を捉える。特に芹香のグループがダンスコンテストに出場するため練習していた光が射す部屋で、陽だまりの意味で、グループ名をSUNNYにする事を決めるシーンが印象的だ。そして大人になった彼女達とのコントラストを見事に描き出している。ストーリー自体は、オリジナルの韓国版に近いが、死に面したかつてのコギャルという設定に改変した事で、より日本人に突き刺さる、掛け替えのない作品になったと言えるだろう。ラストに映画的な奇跡のシーンが訪れるが、ただの懐古主義に終わらせず、ボロボロになった中年がそれでも生きていく、希望を提示しているのが素晴らしい。
大根監督の好みで、コンテストで踊り、サブタイトルにもなっているオザケンの楽曲が、コギャルにはマッチしない感があるのは残念だったが、時代のアイコンだった安室奈美恵が引退する、平成の最後を飾る、チョベリグ(死語)な映画だ。
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